冬のささやき

SF

#ジャンル:ファンタジー
#トーン:感動的
#登場人物:少年と少女

雪が降るたび、リリィは村の大人たちから「森には近づくな」と言われて育った。雪深い村にとって森は命を守る場所であり、同時に命を奪う危険地帯だった。特に冬の夜には、森の中から囁くような声が聞こえるとされ、村ではそれを「雪のささやき」と呼んでいた。

ある晩、リリィはその声を聞いた。「来て」という囁き。それは誰かが彼女を呼んでいるようで、抗いがたい衝動に駆られた。気がつけば、厚手のマントを羽織り、夜の森へ足を踏み入れていた。

月明かりの下、木々をかき分けて進むと、小さな祠が現れた。その中には氷のように透き通った少年が座っていた。彼の目はどこか悲しげで、リリィを見ると微笑んだ。

「ずっと待ってたよ、君が来るのを」

リリィは一瞬息をのんだ。「私を……知っているの?」

少年は静かに頷いた。「君はこの村の秘密を知らないんだね。でも、そろそろ教えるときが来た。君がこの森の生まれだからだ」

「私が……森の生まれ?」

少年は祠の奥へとリリィを導いた。そこには凍りついた泉があり、鏡のように滑らかな水面には、赤ん坊だった頃のリリィが映っていた。それは村人たちが彼女を雪の中に捨てた記憶だった。

「雪の中にいた君を、この森が守ったんだ」と少年が言った。「君は村にとって、呪いでもあり救いでもある存在だ。でも、君の中に答えはあるはずだよ。どうするか決めるのは君自身だ」

リリィはしばらく泉を見つめた後、凍える手をぎゅっと握りしめた。「私は村に帰る。森のことも、自分のことも、みんなに伝える」

少年は静かに笑った。「君ならそう言うと思った。さようなら、リリィ。そしてありがとう」

祠を出た瞬間、森の木々がざわめき、彼女の背後で祠は雪に飲み込まれた。

凍える風の中を進みながら、リリィは村の灯りを目指した。彼女の胸には、冷たいはずの風がなぜか暖かく感じられた。それは彼女が初めて「自分自身」を見つけたからかもしれない。