氷の魔女と灯火の少年

ファンタジー

#ジャンル:ファンタジー
#トーン:感動的
#登場人物:魔女

北の果て、吹雪の止むことがないヴェルデン地方。村人たちは「氷の魔女」の伝説を恐れ、雪山に近づくことを禁忌としていた。だが幼い少年レンは、狩りをしていた最中に嵐に巻き込まれ、禁忌の洞窟に迷い込んでしまう。

洞窟の奥には、巨大な氷の塊に囚われた女性がいた。燃えるような瞳と白銀の髪を持つその姿は、村の言い伝え通りの「魔女」だった。レンが恐る恐る氷に触れた瞬間、割れた氷片が音を立てて砕け、魔女は目を覚ました。

「なぜ私を解放した?」冷たい声に、レンは震えながら答える。「寒くて、助けが必要だと思ったんだ。」
魔女の名はヴァネッサ。かつて彼女は村を守る守護者だったが、人々の裏切りにより封印されたという。彼女はレンの無邪気な行動に心を動かされ、吹雪を収めることを約束した。

しかし、ヴァネッサが動き始めると周囲の空気が変わり、洞窟の氷壁が微かに震えた。「これが私の力の名残だ。今は全てが衰えているが、かつては人々を守るためのものだった」と彼女は呟いた。レンはその言葉に耳を傾け、自分が解放した存在の壮大さに圧倒された。

だが村に戻ったレンを待っていたのは感謝ではなく非難だった。「魔女を解き放ったお前のせいで、また災厄が訪れる!」と。レンは村人たちに何を言われても怯むことなく、「彼女は悪い人じゃない」と訴え続けた。しかし、村人たちは耳を貸さず、レンを追放するという結論に至った。追放されたレンは、ヴァネッサと共に旅に出ることを決意する。

旅の中で、レンはヴァネッサが心に秘めた孤独と悲しみを知る。彼女は人間の暖かさを信じたかったのだが、裏切りの連鎖がその信頼を砕いたのだ。ある日、二人が立ち寄った村で、ヴァネッサは無意識に助けを求める少女に手を差し伸べた。その行動に触れたレンは、彼女の中にまだ人間を愛する心が残っていると確信した。

レンは彼女に再び人間を信じてもらうため、彼自身が「灯火」となって道を照らそうと誓う。彼はヴァネッサに語った。「僕は君を信じている。いつかみんなも信じてくれるさ。」その言葉はヴァネッサの心を少しずつ溶かしていった。

やがてレンとヴァネッサの旅は、再び人と魔女の絆を紡ぐ希望となる。二人は共に新たな未来を切り開く決意を胸に、雪山を後にした。