#ジャンル:ドラマ
#トーン:緊張感のある
#登場人物:キャリアウーマン
真奈美が企画書を上司に提出した翌日、オフィスはざわついていた。「由香里さんのプレゼン、すごかったね」「あれで次のプロジェクトリーダーは決まりだね」。その声を耳にした瞬間、真奈美の心に疑念が生じた。自分が昨日まで練り上げていた企画書と、由香里の発表内容が奇妙なほど似通っていたのだ。
不安を抱えながら、自分の机の引き出しを開けた真奈美は言葉を失った。そこにあるはずの資料がすべてなくなっていたのだ。由香里――大学時代からの親友で、同じ職場で苦楽を共にしてきた仲間。そんな彼女が裏切るなんて信じられなかったが、状況はそれを示していた。怒りと裏切りの感情が胸を渦巻く中、真奈美は机に座り直し、深呼吸をした。「ここで感情に流されては負ける。冷静に証拠を集めよう」と心に決めた。
翌週、真奈美は自信に満ちた表情で会議室に立っていた。手に持っているのは、自分が考案した香水の試供品と特許申請書類のコピーだ。「先日、由香里さんがプレゼンした商品ですが、香りの特許申請書類が完成しました」と彼女は静かに話し始めた。社員たちは資料に目を通し始めたが、次第に会議室全体が異様な空気に包まれた。資料の中に記載されたアイデア提供者の欄には、はっきりと「真奈美」という名前が記されていたのだ。
顔色を変えたのは、由香里だった。彼女は手元の資料を握りしめ、何か言おうとしたが、声が出ない。そんな彼女に向けて、真奈美は続けた。「私が実際に開発した証拠のデータもこちらにあります。この香りが生まれるまでに、何度も試行錯誤しましたから」彼女がパソコンの画面を共有すると、そこには試作を重ねる過程が詳細に記録されていた。どの段階で香りの比率を調整したか、そのメモまでが残っていた。
上司は険しい表情をしながら、由香里に目を向けた。「これはどういうことだ?」と鋭い口調で問いただす。その瞬間、由香里は立ち上がり、会議室を後にした。その背中にはかつての自信や余裕は微塵も感じられなかった。
その後、由香里はプロジェクトから外され、真奈美が正式にプロジェクトリーダーに任命された。真奈美は成功の香りを胸いっぱいに吸い込みながらも、心の奥底に残る複雑な感情を振り払えずにいた。彼女が求めていたのは、競争ではなく、互いを高め合う関係だったはずだ。
それでも、真奈美は新しいリーダーとして前に進むしかなかった。会議室の窓から見える空を見上げながら、彼女はそっとつぶやいた。「成功の香りって、案外苦いものなんだな……」