#ジャンル:ファンタジー
#トーン:シリアス
#登場人物:大学生
美咲がその砂時計を拾ったのは、大学帰りの雨の日だった。商店街の古びた雑貨屋の店先で、埃まみれの棚の隅に置かれていたそれは、なぜか彼女の目を惹きつけた。ガラス製の容器に収められた細かな砂。目を凝らすと、砂粒がきらめく星屑のように光っている。「不思議だな……」と思いつつ、美咲は迷わず手を伸ばした。
店主は言った。「それ、ただの砂時計じゃないよ。使い方を間違えると大変なことになる。」しかし、言葉に込められた真意を深く考えもしないまま、美咲はその砂時計を購入した。
翌朝、大学の講義に遅刻しそうになった美咲は、試しに砂時計を逆さにした。砂が流れ始めると同時に「どうか間に合いますように」と願った。その瞬間、時間がまるで巻き戻されたように感じ、次に気づいた時には、大学の最寄り駅のホームに立っていた。奇跡としか思えない出来事に、美咲は歓喜した。
それから砂時計は、美咲の生活の一部となった。試験前の願い、友人とのトラブル解決、些細なお願いごと。砂時計を使えば全てが彼女の思い通りになるかに見えた。だが、幸運と引き換えに、周囲の世界が少しずつ奇妙になり始めた。
まず、駅前の時計台が突然壊れた。さらに、いつも笑顔を絶やさない友人の瞳に、どこか暗い影が差し始めた。そして、ある日、自室で砂時計を眺めていると、底に細かなひびが入っていることに気づいた。その時、美咲は初めて不安を感じた。
「もしかして、この砂時計が原因?」
彼女は調査を始めた。図書館やインターネットで砂時計の起源や伝説を探るうち、砂時計がかつての錬金術師によって作られた呪われた道具であることを知った。その砂時計は、時間を操る代償として、使用者の周囲に災厄をもたらし、最終的には世界そのものを壊してしまうという。
恐怖に駆られた美咲は、砂時計を壊そうと試みた。しかし、普通の方法ではびくともしなかった。調べを進めると、呪いを解くには「最後の願い」を使う必要があるとわかった。それは、使用者が自らの時間を差し出すことで、砂時計の効力を永遠に封じる儀式だった。
美咲は悩んだ。砂時計を壊せば、今まで得た全ての恩恵が消え去るだろう。だが、それでも彼女は決意した。砂時計を逆さにし、最後の願いを心の中で叫ぶ。
「私の時間を捧げる。だから、この呪いを終わらせて!」
その瞬間、砂時計は眩い光を放ち、砕け散った。同時に、美咲の周囲の異変もすべて消え去った。だが、美咲自身の存在もまた、この世界から消えたのだった。
翌日、彼女の友人たちは、なぜか彼女のことを思い出せなかった。ただ、不思議と心の中にぽっかりと穴が開いたような感覚だけが残っていた。