#ジャンル:ドラマ
#トーン:感動的
#登場人物:写真家
雅人が商店街で写真館を開いてから十年になる。シャッター商店街と呼ばれるほど閑散としていたが、写真館の明るいショーウィンドウは、通りを歩く人々の心に少しでも温もりを届けたいという雅人の願いそのものだった。古いカメラとフィルムを愛用する彼のスタイルは、時代遅れだと言われることもあったが、地元の人々からは「どこか懐かしい」と評判だった。
そんなある日、雅人の店を訪れたのは、中学生くらいの少女だった。大きな目に不安の色を浮かべながら、彼女は一枚の写真を手にしていた。
「すみません。この写真の人を探してほしいんです。」
差し出された写真には、若い女性が微笑んで写っていた。写真は古びていて、角が少し色褪せている。雅人はその写真を手に取りながら尋ねた。
「この人は君の知り合い?」
「いえ、わたしのお母さんが持っていたんです。でも、お母さんはこの人のことを話したがらなくて……。」
少女は自分の名前を「里奈」と名乗った。母親が病気で入院中のため、母の部屋を整理していた際にこの写真を見つけたという。そして、「なぜ母はこの写真をずっと隠していたのか」を知りたいと思ったのだと話した。
雅人は里奈の必死な表情を見て、彼女を助けることに決めた。
「わかった。できる限り調べてみよう。」
最初の手がかりは、写真の背景だった。商店街の古い建物が写り込んでおり、それがこの場所で撮られたものだと示していた。雅人は商店街の古参の住人たちに話を聞き始めた。
八百屋の店主、理髪店の主人、昔ながらの駄菓子屋の婆さん——皆が写真を見ては首をひねったが、最終的に駄菓子屋の婆さんが思い出した。
「この人は確か、昔ここに住んでいた村田さんの娘さんじゃないかい?」
村田という名前に聞き覚えがあった雅人は、商店街の古い記録を調べた。そして、村田家が数十年前に町を出たこと、娘が商店街で働いていたが突然いなくなったことを突き止めた。
その過程で、雅人は里奈の母親と村田家の娘が幼なじみだった可能性が高いと気づいた。母親が何らかの理由で友人の失踪に関与しているのではないか、という疑念が浮かび上がる。
「なぜお母さんはその写真を隠していたのか、きっと理由があるはずだ。」
雅人はそう言いながら、真実を探し続けた。
ある日、雅人と里奈は商店街の古い倉庫にたどり着いた。そこには村田家の残した手紙や日記が保管されていた。その中には、村田家の娘が「商店街の人々の助けを借りて新しい人生を始めた」ことを示す手がかりがあった。そして、里奈の母親がその手助けをしたことも明らかになった。
里奈の母親は、友人を守るために真実を隠していた。だがその代償として、心の中にずっと負い目を感じていたのだと雅人は理解した。
「写真を通じて過去を紐解いたおかげで、お母さんがどれだけ大事な友人を守りたかったかが分かりました。」
里奈の言葉には、どこか安堵の色があった。
写真館の明かりの下で、雅人は微笑んだ。過去の秘密が明るみに出たことで、商店街の人々との絆がさらに深まったように感じた。そして里奈にとっても、母親との新しい絆が芽生えるきっかけとなった。