#ジャンル:ファンタジー
#トーン:ミステリアス
#登場人物:双子
山間にひっそりと佇む村には、昔からこんな言い伝えがあった。
「村外れの祠の鏡に映った者は、未来を垣間見ることができる。ただし、その瞳には消せぬ傷が残るだろう。」
双子の姉妹、花と葵はこの村で育った。顔立ちは瓜二つだが、性格は対照的だった。姉の花は活発で好奇心旺盛。妹の葵は内向的で本を好む静かな少女だった。幼い頃から二人は祠の伝説を何度も耳にし、怖いながらもどこか惹かれる話題だった。
ある日、二人が山道を駆け回って遊んでいたときのこと。花が足を滑らせ、崖から落ちそうになった。葵は咄嗟に手を伸ばして姉を掴んだが、体勢を崩して二人とも滑り落ちた。葵は無傷だったが、花は頭を打ち、目に深刻な怪我を負った。
医師が診察した結果、花は二度と視力を取り戻せないと告げられた。葵は深い自責の念に駆られた。
「ごめんね、花……私がもっとしっかりしていれば……」
「そんなこと言わないで。」花は微笑んだが、その瞳はどこか空虚だった。
それから数週間後、花は奇妙なことを話し始めた。
「葵、私の目には……何かが映るの。」
「何かって?」
「人の顔の後ろに、黒い影みたいなものが見えるの。声も聞こえる時がある。」
葵は最初、花が心の傷から現実逃避しているのだと思った。しかし、村人たちの間で不吉な噂が広がり始めると、彼女の言葉を無視できなくなった。花が影を見たと言った翌日、その人が必ず何か不幸な目に遭うのだ。
「花、これは一体……」
「私にも分からない。でも、あの祠に行った日からだと思う。」
花は事故の直前、興味本位で祠の鏡を覗いていたのだと告白した。
それを聞いた葵は、意を決して祠へ向かうことを決めた。村外れの森を進み、古びた祠の前に立つ。中には、曇った大きな鏡が静かに佇んでいた。葵は震える手で鏡に触れたが、何も起きなかった。
その夜、家に戻った葵は奇妙な夢を見た。暗闇の中、花が立っていた。彼女の
瞳には何か鮮やかな光が宿り、普段の花とは違う雰囲気を纏っていた。
「葵、私の代わりに見て。」
「何を……見ればいいの?」
「鏡はすべてを映すけど、それを受け入れる覚悟が必要なの。」
夢から覚めた葵は、花の言葉に何か意味があると直感した。次の日、もう一度祠を訪れた葵は、鏡を見つめながら目を閉じ、心を落ち着けた。そして再び瞳を開けた瞬間、鏡の中に奇妙な映像が映り始めた。そこには、村全体が黒い霧に包まれ、次々と人々が倒れる様子が映し出されていた。
「これは……未来?」葵は息を呑んだ。
帰宅後、葵は花にこのことを伝えた。
「花、私が見たものは、村に何か大きな災厄が訪れるという未来だった。でも、これを止める方法も見えた。」
「どんな方法?」
「誰かがこの災厄の元となる存在と向き合わなければならない。そして、その役目は……私たち姉妹のどちらかだって感じた。」
花はしばらく沈黙していたが、やがて静かに頷いた。「私たちにできることがあるなら、やるしかない。」
二人は再び祠へ向かい、鏡に手を伸ばした。その瞬間、鏡は二人を包み込むように光り輝き、深い闇の中へと引き込んだ。そして二人が立っていたのは、災厄が起きた未来そのものだった。
そこには、言い伝えにあった黒い影が村を覆い尽くしていた。その影は彼女たちに話しかけた。「私を見つめる勇気があるのか?」
葵は恐怖に震えながらも、花の手を強く握り返した。
「私たちは、未来を変えるためにここに来た。」
姉妹の瞳に光が宿り、影を照らし出す。未来は変えられるのか――姉妹の運命は、これから語られる新たな言い伝えとして村に残ることになるだろう。