#ジャンル:ドラマ
#トーン:心温まる
#登場人物:高校生
夏休みが始まってすぐ、美咲は久しぶりに祖母の家を訪れた。去年の冬に亡くなった祖母が住んでいた家は、家族の手で片付けが進められていたが、古いタンスや本棚にはまだ手がつけられていなかった。
「美咲、そこの棚をお願いできるかしら?」
母の声に頷きながら、美咲は木製の引き出しを開けた。中から出てきたのは、祖母が長年使っていたと思われる古い封筒や便箋、そして一通の手紙だった。薄い茶色に日焼けしたその封筒には、美咲の名前が丁寧な字で書かれていた。
「おばあちゃんが私に…?」
不思議に思いながら封を切ると、柔らかな紙の匂いと共に祖母の文字が目に飛び込んできた。
『美咲へ』
『この手紙を読む頃、私はもうそちらにはいないでしょう。でも、私の言葉があなたの心の中に届くことを願っています。』
読み進めるうち、美咲の胸に温かいものがこみ上げてきた。そこには、祖母が生前に抱いていた美咲への思いが綴られていた。学校のこと、友人のこと、そして将来の夢についても触れられていた。
『美咲、夢を見ることを恐れないで。大人になると、「できない理由」を探してしまいがちだけれど、若いあなたには可能性が無限に広がっている。たとえ失敗しても、それはあなたが成長するための大切な一歩です。』
いつも優しく穏やかな祖母が、こんなにも力強い言葉を残してくれていたことに驚き、美咲は涙ぐんだ。
手紙の最後には、こう書かれていた。
『もし迷ったときは、庭に植えたひまわりを見てごらん。ひまわりはいつも太陽を向いて、元気よく咲いているでしょう?あなたも太陽に向かって咲くひまわりのように、まっすぐ進んでいってね。』
手紙を読んだあと、美咲は祖母の家の庭に足を運んだ。そこには、祖母が生前に育てていたひまわりが大きく咲き誇っていた。空を見上げるように咲く花々の姿に、美咲はふと背中を押される感覚を覚えた。
「私、もっと頑張ってみる…」
美咲はそっと呟いた。それは、自分自身に向けた小さな決意だった。
その夏、美咲は祖母の手紙に背中を押され、将来の夢に向かって動き出した。大学進学を目指すために本格的に勉強を始め、学校では以前より積極的に意見を言うようになった。祖母が残したひまわりは、毎朝の美咲の心の支えになっていた。
数年後、大学に進学した美咲は、ひまわりを模した小さなピアスを耳に着けていた。それは祖母からの贈り物と、あの日手にした手紙を忘れないための、美咲自身の象徴だった。
美咲の心には、いつまでも祖母の言葉が生き続けている。夢を持つことの大切さ、そして家族の愛情が、彼女の人生を照らし続けていた。