消えた時計職人の謎

ミステリー

#ジャンル:ミステリー
#トーン:クラシック
#登場人物:名探偵

ロンドンの朝霧がまだ街路を覆うある日、名探偵エドワード・ブラックと助手のハロルド・グレイは、急ぎの依頼を受けて時計職人アイザック・ベントリーの工房を訪れた。アイザックはロンドンでも名の知れた職人で、精巧な時計を作ることで貴族たちからも信頼されていた。しかし彼は、昨夜忽然と姿を消し、工房には不気味なまでに静けさが漂っていた。

「ハロルド、見たまえ。この時計だ。」エドワードは作業台に残された銀製の懐中時計を手に取った。文字盤の裏には、緻密な彫刻で暗号めいた模様が施されている。

「奇妙ですね、先生。まるで何かのメッセージのように見えます。」

「そうだ。これは暗号だ。見よ、アラビア数字に見えるが、時計盤の配置が通常とは異なっている。時間ではなく、文字を表しているに違いない。」

エドワードが慎重に時計を調べると、ある法則に基づいて隠された言葉が浮かび上がってきた――“RAVEN”という単語。

「カラス……」彼の目が細められた。「やはり、彼らの仕業か。」

「彼ら?」

「19世紀初頭、秘密裏に暗躍した《黒翼結社》のことだ。彼らは重要な情報を、特殊な暗号を刻んだ品物に隠し、密かに伝えていた。だが、なぜ今になって……?」

工房を詳しく調べると、引き出しの奥から古びた手帳が見つかった。そこには数々の時計と共に、黒い羽根の印が刻まれていた。記されているのは、ロンドンのさまざまな場所――そして、最後のページには「ミルバンク監獄」と記されている。

「ミルバンク監獄……そこに何かが隠されているのか?」

エドワードとハロルドは手帳を頼りに監獄跡へ向かう。そこは今や博物館となっていたが、地下牢にはまだ手つかずの空間が残っている。二人は闇を照らしながら奥へ進むと、壁の奥からかすかな時計の音が響いた。

「誰かがいる!」

突如、黒いマントを纏った男たちが現れ、二人を取り囲んだ。「お前たちは踏み込みすぎた……この時計職人の秘密を暴くわけにはいかない。」

エドワードは微笑むと、懐から取り出した時計を男たちの前にかざした。「すでに答えはここにある。アイザックはお前たちに追われて姿を消したのだな?」

「彼は我々の手を逃れたが、長くは持たない……」

闇の中、男たちは煙幕を放ち、姿を消した。だがエドワードは逃げた先の足音を聞き分け、「やはり、旧時計塔へ向かったようだな」と呟いた。

翌日、二人は時計塔に潜入し、機械仕掛けの奥深くに隠された部屋を発見した。そこに縛られていたのは、衰弱したアイザックだった。彼は弱々しくエドワードに微笑み、「あの秘密を……彼らに渡してはならない……」と囁いた。

エドワードは時計職人を救出し、秘密結社の証拠を手に入れた。そして、その日から時計塔の鐘は、アイザックの代わりにエドワードによって時を刻み続けることとなる。