#ジャンル:ドラマ
#トーン:感動的
#登場人物:アマチュアバンド
会社の昼休み、スマホに届いた一通のLINEを見て、俺――和也はしばらく動けなかった。
「翔太が……余命半年だって」
送り主は「Silent Echo」の元ギタリスト、亮介だった。高校時代、俺たちはバンドに夢中だった。文化祭のステージに立ち、卒業前に小さなライブハウスでワンマンライブをした。それが、俺たちの最後のライブだった。
大学進学後は忙しさに流され、自然とバンドは消滅した。翔太は音楽の道に進んだと聞いていたが、久しく連絡を取っていなかった。
亮介のメッセージにはこう続いていた。
「翔太が最後にもう一度、俺たちとライブをしたいって言ってる」
その夜、亮介、ベースの拓海、キーボードの奈々と居酒屋に集まった。翔太は入院中で、来られない。俺たちは五年ぶりに顔を合わせ、ぎこちない乾杯を交わした。
「翔太、本当にライブできるのか?」と拓海が言う。
「医者は無理だって言ってる。でも、やりたいって言うんだ」亮介がビールを飲み干し、続けた。「俺たちが弾いて、翔太は歌うだけでもいい。やろうぜ、ラスト・ライブ」
俺たちは沈黙した。皆、仕事がある。生活がある。だが、それでも――
「やるか」俺が言った。「最後くらい、翔太のわがまま聞いてやろう」
奈々が微笑み、拓海が頷く。「なら、スタジオ押さえるわ」亮介が動き出し、俺たちは再びバンドに戻ることを決めた。
それからの数週間、俺たちは仕事の合間を縫ってスタジオに入った。指は思うように動かず、ブランクを痛感した。でも、やっぱり音を合わせるのは楽しかった。
翔太は何度か見学に来た。「お前ら、まだまだイケるな」痩せた顔で笑う。病気のせいで声量は落ちていたが、歌う姿は変わらなかった。
本番は翔太が通院する病院近くの小さなライブハウス。かつて俺たちが立った場所だった。翔太のために貸し切りにし、昔のクラスメイトや家族を招待した。
本番当日。翔太は車椅子だったが、ステージの中央に立った。
「久しぶりにやるぜ、『Silent Echo』のラスト・ライブ!」
俺たちは演奏を始めた。指は震えたが、音が重なった瞬間、高校時代に戻った気がした。翔太の声はかすれていたが、確かに響いていた。
ラストナンバー、「Our Echo」を演奏した。俺たちが最後に作った曲。翔太の声が、俺たちの音と溶け合った。
終わった瞬間、涙が溢れた。翔太も、俺たちも、観客も泣いていた。でも、それは悲しみの涙じゃなかった。
ライブの数日後、翔太は息を引き取った。
でも、彼の声は、俺たちの中に今も残っている。
あの日のライブの音が、今も心に響いている。
――Silent Echo、最後の音は、今も消えていない。