神の声を聞く少年

ファンタジー

#ジャンル:ファンタジー
#トーン:ミステリアス
#登場人物:少年

 「レン、お前の選択が世界を変える」

 その声が聞こえたのは、雨上がりの午後だった。

 少年レンは、ベッドの上で目を覚まし、静かに天井を見つめた。頭の中に響くその声は、どこか威厳に満ちていたが、不思議と冷たくはなかった。

 「お前には未来を知る力がある。そして、お前の決断次第で世界は変わる」

 最初は夢だと思った。

 けれど、その日からレンは、頭の中で“神の声”を聞くようになった。

 最初の予言は些細なものだった。

 「次の授業で先生が出す問題は、三番目の答えを選べ」

 レンは半信半疑のまま解答した。すると、正解だった。

 次はもっと驚くべきことだった。

 「帰り道で、右の道を選べ」

 言われたとおりにすると、ほんの数秒後、左の道を自転車が猛スピードで通り過ぎた。もしレンがそちらを歩いていたら、事故に巻き込まれていたかもしれない。

 それからというもの、神の声は、日常の些細な出来事を次々と予言し、それらはすべて的中した。

 レンは、次第にその声に従うことに慣れていった。

 しかし、ある日、神の声はこう告げた。

 「三日後、この街で大きな事故が起こる」

 レンは息をのんだ。

 「……事故?」

 「お前が行動を起こせば、避けられるかもしれない」

 そのとき初めて、レンは疑問を抱いた。

 この声は、なぜすべてを教えてくれるのに、事故を防ごうとしないのか?

 「どうすればいい?」

 神の声は答えなかった。ただ、じっと待っているような沈黙が続いた。

 やがてレンは自ら考え、警察に匿名で通報した。そして、その事故は未然に防がれた。

 「……よくやった、レン」

 その瞬間、レンの中で何かが変わった。

 やがて、神の声はより大きな選択を求めるようになった。

 「この国の未来は、お前の選択にかかっている」

 レンの決断が、国家の運命さえ左右する。だが、その声に従うことが正しいとは限らない。

 ある夜、彼は静かに尋ねた。

 「あなたは、本当に神なの?」

 「……」

 その問いには、答えがなかった。

 レンは思った。もしかすると、この声は“神”ではなく、“未来”そのものなのかもしれない。

 だとしたら、自分が選ぶべき未来は、誰かに与えられるものではなく、自分自身の意志で決めるべきものではないのか――?

 「もう、お前の道はお前が決めろ」

 最後に、神の声はそう言い残し、静かに消えた。

 レンは天を仰ぎ、ゆっくりと歩き始めた。

 この世界の未来を決めるのは、神ではなく、自分自身なのだから。