#ジャンル:SF
#トーン:不思議な
#登場人物:子供
夜の帳が降りた町の片隅で、悠真は不思議な夢を見ていた。どこまでも広がる闇の中に、一つだけ浮かぶ古びた街灯。その下に、小さな少女が立っていた。年の頃は十歳くらいだろうか。長い黒髪に、夜のような深い瞳を持ち、白いワンピースが風に揺れている。
「君の夢を少しだけちょうだい」
囁くような声に、悠真は戸惑った。「夢を食べるってどういうこと?」と尋ねると、少女はかすかに微笑んだ。
「私は『夢喰いの子供』。ここに閉じ込められているの」
夢の世界に囚われた存在——少女の言葉は、悠真の背筋を冷たく撫でた。
目が覚めたとき、悠真は息が荒くなっていた。あの夢はただの幻想なのか? それとも——。
次の日、学校で悠真は親友の圭太に話しかけた。「最近、変な夢を見てないか?」
「夢? そういえば、ここ数日全然夢を見てないな。そういうことってあるのか?」
悠真の胸に不安が広がる。夢喰いの少女の話は本当なのかもしれない。夢を食べられた人は、二度と夢を見られなくなるのではないか?
その夜、再び夢の中に少女は現れた。
「君が来てくれると思ってた」
少女の名前は椿というらしい。彼女は長い間夢の世界に閉じ込められ、夢を食べることでしか存在を維持できないのだという。だが、その代償として、食べられた人は夢を見ることができなくなり、次第に生気を失っていく。
「君を助ける方法はないの?」悠真は尋ねた。
椿は一瞬、哀しそうな顔をした。「あるかもしれない。でも、私はもう……」
「何か方法があるなら教えてくれ!」
椿は迷いながらも、静かに答えた。「私を覚えていてくれる人がいれば、私は夢の世界から出られるかもしれない。でも……そんな人、もうどこにもいないの」
悠真の心臓が強く打った。「それなら俺が君を覚えてる!」
椿の瞳が大きく揺れた。
その瞬間、夢の世界がぐらりと揺れる。悠真の意識が遠のく中、椿の声が微かに聞こえた。
「ありがとう……」
朝、目が覚めると、悠真は汗をかいていた。椿のことははっきりと覚えている。だが、どこか胸が苦しい。
数日後、町の図書館で古い新聞記事を見つけた。そこには、数十年前に事故で亡くなった少女の記事が載っていた。名前は——椿。
悠真はそっと目を閉じた。
それから、彼は夢を見続けることができた。椿の姿はもう現れない。それでも、夢の中には、どこか優しい風が吹いていた。