星の海を越えて

ファンタジー

#ジャンル:ファンタジー
#トーン:幻想的
#登場人物:宇宙船員

 1
 宇宙船〈オルフェウス〉は、果てしない銀河の海を航行していた。

「未知の惑星、リュミエール……」

 レオンは船の窓から、その星を見下ろした。青と紫が混ざる幻想的な大気に包まれ、無数の星の光が降り注いでいる。地球からは遥か彼方に位置する未踏の惑星。その姿は、まるで宇宙の宝石のようだった。

「よし、降下準備だ!」

 船長の声が響き、探索チームは惑星への着陸を開始した。

2
 リュミエールの地表に降り立った瞬間、レオンは息を呑んだ。

 空気は澄み、地面には光る結晶のような植物が広がっている。空には流星が絶えず舞い、まるで星々が降り注いでいるようだった。

「なんて美しい世界なんだ……」

 だが、その美しさの裏に、何か違和感があった。

 ——時間の流れが、違う。

 仲間が報告したデータによると、リュミエールでは時間の進み方が地球とは異なり、ここでの一日は地球の数年に相当するという。

 「不思議な星だな……」

 その時だった。

 光る樹々の向こうから、ふわりと誰かの気配がした。

3
 レオンの目の前に現れたのは、銀色の髪をした少女だった。

 透き通るような青い瞳。儚げな微笑み。彼女は静かにレオンを見つめ、そっと囁いた。

「あなたは……星の彼方から来た人?」

 「えっ?」

「ようこそ、リュミエールへ。私はエリス。この星に囚われている者です」

 囚われている?

 レオンが尋ねると、エリスは寂しそうに微笑んだ。

「この星は、美しいけれど……永遠に時が巡る牢獄なの」

4
 エリスの話によれば、リュミエールには特異な時間の流れがあり、ここに長く留まった者はやがてこの世界と同化し、決して出られなくなるのだという。

「私もかつては、あなたたちと同じように宇宙を旅していた……でも、気づいた時にはもう戻れなかった」

 レオンは言葉を失った。

 もし、この星に長く留まれば、彼らも——。

 「レオン! 戻るぞ!」

 通信機から仲間の声が響いた。

 レオンはエリスを見つめた。彼女を、このまま置いていくことはできない。

「一緒に来ないか?」

 だが、エリスは首を振った。

「私は、ここに留まる運命だから……」

 その時、星々の光が彼女の周囲を包み込んだ。

5
 「行って……あなたの未来を生きて」

 エリスの言葉が、レオンの胸に深く刻まれる。

 彼は名残惜しそうに彼女を見つめ、そっと手を伸ばした。しかし、その指が触れるよりも前に、エリスの姿は光の粒となって星空へと消えていった。

「さよなら……」

 レオンは拳を握りしめ、仲間の元へと走った。

6
 宇宙船〈オルフェウス〉はリュミエールを離れ、再び銀河の海を進んでいく。

 レオンは窓の外を見つめ、そっと呟いた。

「いつか、また会えるかな……」

 その時、宇宙の闇の向こうに、一筋の流星が輝いた。まるでエリスが微笑んでいるように——。