交換惑星プログラム

SF

#ジャンル:SF
#トーン:切ない
#登場人物:青年

地球とよく似た文明を持つ惑星〈リヴァリス〉との文化交流プロジェクト。それが「交換惑星プログラム」だ。人間とエイリアンがお互いの世界で一定期間生活し、理解を深める──と聞けば、夢のような計画に思えるだろう。

しかし、青年・新田悠にとっては、まったく現実味のない話だった。英語も得意でなく、リーダーシップにも縁がない。選ばれたのはただの「平均的な人間」として。相手の世界に適応できる「普通さ」が、評価されたのだという。

リヴァリスは美しい星だった。地球と似た空と大地。けれど決定的に違うのは、時間の流れが“逆”であるということ。彼らにとって過去とは未来。悠が朝と呼ぶ時間に、リヴァリスでは「一日の終わり」が始まる。

戸惑いながらも日々を過ごすうち、彼は現地の案内役である少女・セラと親しくなった。彼女は感情表現が豊かで、好奇心旺盛。だが彼女との会話は、常に食い違いを孕んでいた。なにせ彼女にとって「これから会う」ことは、悠にとって「もう会った」ことなのだ。

「明日、あなたと出会うわね」と、ある日セラは言った。

意味がわからずにいた悠は、滞在期間が終盤に差しかかるころ、ようやく気づく。彼女は彼を“過去から来た人”として記憶していたのだ。彼にとっての出会いが、彼女にとっての別れなのだと。

「私、あなたをこれから好きになる。でもあなたは、もう私を……」

セラの言葉は風に紛れた。彼女の目には、涙が宿っていた。

やがて帰還の日。悠は出発点である施設の前で彼女を見つけた。だが、セラの態度はそっけなかった。まるで彼に初めて会ったかのように。

ああ、そうか。

彼女の“過去”には、まだ彼はいなかったのだ。

悠は静かに手を振った。「また会おう」と。セラは一瞬だけ眉をひそめ、それから小さく笑った。

それは彼にとっての「最後の笑顔」であり、彼女にとっての「最初の微笑み」だった。

宇宙は広く、時間は一方通行ではない。だが、たとえ時の流れが違っても、心は通じる。

それだけは、悠の中に確かに残っていた。