白亜の守護竜

ファンタジー

#ジャンル:ファンタジー
#トーン:感動的
#登場人物:少年

夏休みのある日、少年ハルは博物館の裏山にある発掘現場で、小さな骨の欠片を見つけた。地元の化石発掘イベントに参加していた彼は、他の子どもたちがアンモナイトや貝を掘り出すなか、ひときわ光を帯びた白い骨に目を奪われた。

「これ、恐竜の……?」

手に取った瞬間、世界が反転した。

空が割れ、耳鳴りがしたかと思えば、ハルは見知らぬ白い荒野に立っていた。眼前にそびえるのは、翼を広げた巨大な竜。その体は透き通るような光でできており、まるで星空の結晶のようだった。

「お前が……目覚めさせたのか」

竜は言葉を話した。低く、優しい声だった。

「我は“シェル=ガルド”。白亜の時代より、この世界を護ってきた守護竜」

数千万年の眠りから目覚めたその魂は、ハルの手に触れたことで記憶を呼び覚ましたのだという。地球がまだ若く、恐竜たちが生きていた時代──シェル=ガルドは、天から落ちてきた「黒き星」によって滅びかけた大地を守るため、仲間の竜たちと共に戦った。

だが力及ばず、彼らは石と化し、魂だけを未来に託した。

「今、再び“黒き星”が目覚めようとしている。お前の時代に、滅びの兆しが見えるだろう?」

ハルは思い出した。気候変動、異常気象、生態系の崩壊。確かに、世界は静かに壊れ始めていた。

「僕に、何ができるの?」

「お前には、記憶を繋ぐ力がある。この世界を護るため、我と共に“鍵”を探すのだ」

こうして、少年と竜の旅が始まった。

シェル=ガルドの力で、ハルは過去と現在、世界の“記憶”にアクセスできるようになった。眠れる化石、滅んだ生物たちの骨、古代遺跡。そのすべてが、彼らを次なる地へと導いていった。

恐竜たちの最後の咆哮が残る大峡谷。氷河期の哀しみが眠る氷の洞窟。そして、かつて“黒き星”が墜ちた場所──深海の裂け目。

その場所で、ハルは“記憶の核”を見つける。それは、恐竜たちが最後に遺した命の記録。そこには、地球の再生を願う歌が刻まれていた。

だが、彼らの前に立ちはだかったのは、黒き星の使い──“ノクス”だった。

「愚かなる者よ。滅びこそが進化だ。記憶にしがみつく者など、過去に沈め」

ノクスは闇の力を操り、世界の“終わり”を加速させようとした。

ハルは恐怖に震えながらも、立ち向かった。

「僕たちは、忘れない。命の記憶が、未来を創るんだ!」

その叫びに応え、シェル=ガルドの身体が輝いた。かつての仲間たちの魂が共鳴し、星のごとく輝く竜たちが空に現れた。

最後の戦いの果て、ノクスは記憶の中へと封じられ、世界には新たな風が吹き始めた。

旅を終えたハルが目を覚ますと、再び発掘現場にいた。手の中の骨は、ただの化石のように見えた。

だが、空は澄み、風があたたかかった。

「ありがとう、シェル=ガルド」

彼は静かに微笑んだ。

化石に触れたその日から、ハルは“記憶をつなぐ者”として、未来を生きていく。

それは、白亜の守護竜と交わした、約束の証だった。