#ジャンル:ファンタジー
#トーン:ドラマチック
#登場人物:踊り子
戦乱の世、アカネは戦場に舞い降りる紅蓮の踊り子として知られていた。その美しさと狂気を帯びた踊りは、兵士たちを魅了し、恐怖を与えた。しかし、彼女の正体は滅びた王国の最後の生き残りであり、復讐のために踊り続けていた。彼女の踊りはただの芸術ではなく、兵士たちの心を支配し、意志を奪うための武器でもあった。
ある夜、アカネはついに仇敵である将軍・剣持の前で踊る機会を得る。燃え上がる炎の中で、彼女の舞はまるで刀のように鋭く、観客の心を切り裂いていく。剣持はその舞に圧倒され、同時に何か胸騒ぎを覚える。
「この踊り……どこか懐かしい気がする。」彼は無意識に呟いた。その言葉にアカネの手が震える。
「懐かしい?私の国を滅ぼした男が……何を言う。」彼女は内心で叫びながらも、踊りを続けた。炎に照らされた彼女の姿は幻惑的で、兵士たちさえその場から動けなくなっていた。
舞が最高潮に達した瞬間、アカネは隠し持った短剣を抜き、剣持に襲いかかる。しかし、将軍はその一撃をかわし、彼女を捕らえる。「お前、何者だ?」
「お前に名乗る名などない!」アカネは目に涙を浮かべながら叫んだ。
剣持は彼女の目に宿る苦しみを見つめ、徐々に真相に気づいていく。「お前の王国を滅ぼしたのは確かに俺だ。だが、俺は命令を果たしただけだ。戦場に生きる俺たちは……」
「言い訳はいらない!」アカネは叫び、再び短剣を握る。だが、その手は震えていた。復讐を果たすべきか、心の奥で芽生え始めた迷いに揺れていたのだ。
「踊り子として生きるか、復讐者として死ぬか、お前が選べ。」剣持の言葉に、アカネは短剣を地面に落とした。そして、代わりに踊り始める。それは涙と共に舞う、新しい決意の踊りだった。彼女は踊りで兵士たちに訴えるように、怒りや哀しみをすべて込めて炎の中で舞った。
炎が周囲を照らし、彼女の舞は一層激しさを増した。それを見た剣持は、彼女に何も言わずにその場を去るしかなかった。復讐を果たせなかった苦しみと、舞を通じて感じた救い。その狭間で揺れる彼女の心が、踊りの中に込められていた。
戦場の兵士たちは、彼女の踊りに涙し、そして黙ってその場を離れた。誰もが口を閉ざしたが、その光景は語り継がれることになった。紅蓮の舞姫の名と共に。