未来のきみへ、今日のわたしより

恋愛

#ジャンル:恋愛
#トーン:切ない
#登場人物:青年

「未来宛ての手紙ですか?」

時を超える郵便局に勤める蓮は、古びた封筒を見つめていた。差出人は未来の自分。これまでも奇妙な依頼を何度も見てきたが、自分自身から届く手紙は初めてだった。

封を開けると、中には短い一言が記されていた。

――「その人を大切に。彼女が君の世界を変えるから」

蓮には意味が分からなかった。だが、その言葉が心に引っかかり、日常に微かな予兆を残した。

数日後、いつもの帰り道。蓮はふと立ち寄った図書館で、一人の女性と出会った。長い黒髪に柔らかな笑顔が印象的な彼女の名は真理亜だった。彼女は机いっぱいに本を広げていて、うっかり蓮の隣の席まで侵食していた。

「あっ、ごめんなさい!」
「いえ、大丈夫です」

それが最初の言葉だった。二人はその日、偶然のようでいて、必然のように会話を交わした。気づけば次第に彼女と過ごす時間が増えていった。

「郵便局で働いているんですね。手紙って素敵。今の時代、文字に気持ちを込めることなんて、なかなかないもの」
「……そうですね」

真理亜は手紙や言葉を大切にしている人だった。そのことに蓮は心が引き寄せられ、彼女に会うたび心が温かくなった。

しかしある日、真理亜が静かに言った。

「私、未来に手紙を書いたことがあるの」

蓮は驚いた顔で彼女を見つめる。彼女は笑みを浮かべながら話を続けた。

「それはね、未来のあなた宛ての手紙よ。何年も前にね、どうしても伝えたいことがあったの」

胸の奥が強く締めつけられた。まるでその言葉が、自分の知らない過去と未来を繋いでいるようだった。

数週間後、彼女は体調を崩し入院することになる。真理亜が抱えていた病は深刻で、もう長くはないと医師に告げられた。蓮は何度も彼女の手を握りしめたが、日に日にその手の温かみが薄れていくのを感じた。

ある日、真理亜が蓮に封筒を手渡した。

「これは……」
「私から未来のあなたへの手紙よ。読んでもらうのは、私がいなくなった後にしてね」

涙を堪えながら蓮は頷いた。彼女は静かに目を閉じ、まるで眠るようにこの世を去った。

数週間後、蓮は彼女からの手紙を開いた。

――「未来のあなたが、幸せでありますように」

その手紙には、彼を想い続けた彼女の気持ちが込められていた。そしてその言葉は、彼女が最後まで未来の彼を信じ、支えようとした証だった。

蓮は涙を流しながら、自分もまた未来へ向けて手紙を書いた。

――「あなたの願いを守るよ。僕は笑顔で生きていく」

その手紙を未来へ送る時、彼の心には真理亜の笑顔が浮かんでいた。郵便局には今日も未来宛ての手紙が届く。その中には、たとえ時を越えても、誰かの想いが込められているのだ。