#ジャンル:SF
#トーン:幻想的
#登場人物:歌姫
無数の光が揺らめく星灯海域。その中央でひときわ強く輝く灯台が、今日も星明かりを操り、迷える船を導いていた。しかし、その灯台がある日突然、星明かりを失った。若き修理技師セレンは、故障の原因を探るべく、その灯台へと派遣された。
灯台に到着したセレンが目にしたのは、廃墟のように静まり返った空間と、一人の少女だった。銀髪に星屑を散らしたような姿をした彼女は、灯台の中央に座り込んでいた。
「君が、この灯台の歌姫か?」
セレンがそう尋ねると、少女はゆっくりと顔を上げた。
「私はリュカ。灯台を歌で動かす存在。でも、力が…枯れかけているの」
灯台を修復するためには、歌姫の力が不可欠だとセレンは知っていた。だが、リュカの声には何かが欠けていた。彼女は星灯を動かす歌を再び歌うことができなくなっていたのだ。
「おかしいんだ、この灯台は。ただの故障じゃない」
セレンがそう告げると、リュカは小さく頷いた。
「私も気づいている。この灯台には、隠された仕掛けがある。それが、私の歌を奪う何かに繋がっている気がする」
セレンとリュカは、灯台の内部を調べ始めた。そして見つけたのは、古びた装置。宇宙の法則を操るという禁じられた技術の痕跡だった。リュカの歌は、この装置に影響を与える力を秘めていたのだ。歌を解き放てば、星灯海域の秩序が崩壊する危険があった。
「こんなもの、残しておくべきじゃない」
セレンは言ったが、リュカは悩んでいた。
「でも、この装置を壊せば、私はもう歌姫でいられなくなるかもしれない。それに、この力が暴走したら…」
二人は議論を重ねたが、答えは見つからなかった。
その夜、灯台が静かに震えた。遠くの星明かりが、一斉に輝きを失い始めたのだ。装置が暴走し始めたのだった。リュカは決断した。
「セレン、私が歌う。この力を制御してみせる!」
星灯が眩い光を放ち、リュカの歌声が宇宙に響き渡った。その歌は柔らかく、しかし確固たる力を持って装置を沈黙させた。しかしその代償に、リュカの姿は星明かりの中に溶け込んでいった。
灯台は再び静かに輝き始めたが、セレンの胸には、リュカの存在がいつまでも残っていた。星灯海域を守るために消えた彼女を忘れることはなかった。