#ジャンル:ドラマ
#トーン:シリアス
#登場人物:キャリアウーマン
瑠衣は都会のオフィス街で働くキャリアウーマンだ。年中忙しい日々を送り、仕事の評価は高いものの、プライベートでは「成功している女性」というラベルが重たく感じられることもあった。夜遅く、靴を脱ぎ捨てた自分の部屋に帰り着くたび、心の奥にぽっかりと空いた穴を感じる。
ある日、休日の街を歩いていた瑠衣は、古道具屋のショーウィンドウにふと足を止めた。そこで目にしたのは、アンティークの鏡だった。装飾が施された縁取りはどこか不思議な雰囲気を醸し出している。
「妙に惹かれるな……。」
何の気なしに購入し、部屋に持ち帰ったその鏡。しかし、鏡に映った自分を見た瞬間、彼女の胸に奇妙な違和感が走った。
最初は見間違いかと思った。それでも、鏡を覗き込むたびに、その違和感が確信に変わっていった。鏡の中の「もう一人の瑠衣」は、瑠衣が知っている自分とは異なっていた。
鏡の中の瑠衣は、緩やかなウェーブのかかった髪を風に遊ばせ、カジュアルなワンピースを着ていた。柔らかい微笑みを浮かべ、どこか牧歌的な風景の中に立っている。
「これは、もし違う選択をしていたらの私?」
瑠衣は動揺を隠せなかった。鏡の中の自分は、自分が封じ込めてきた「もう一つの可能性」を体現しているように見えた。
夜遅く、部屋の静けさの中で瑠衣は鏡に向かって問いかけた。
「もし、私がこのキャリアを捨てていたら、あなたみたいな人生を送っていたの?」
すると、鏡の中の瑠衣はふっと笑った。言葉を交わすことはなかったが、その笑顔は何かを語っているようだった。それは、瑠衣が心のどこかで求めていた「別の人生」の可能性を示唆しているようだった。
その日から、瑠衣は鏡を見るたびに迷い始めた。目の前に映る現実と、鏡の中に見える「もしも」の世界。その間で揺れる心が彼女の中に新たな疑問を生じさせた。
「私は、本当にこれでいいの?」
ある夜、瑠衣は決心を固めた。鏡の中にもう一度語りかけるように、自分自身に問いかけた。
「私が求めているものは何? キャリアだけが全てじゃないとしたら……。」
翌朝、瑠衣はこれまでとは違う一歩を踏み出すことに決めた。忙しない日々から少し距離を置き、新しい趣味を始めたり、疎遠になっていた友人たちに連絡を取ったりした。
鏡の中のもう一人の瑠衣は、その変化を静かに見守っているようだった。ある日、ふと鏡を見ると、そこに映る瑠衣はいつの間にか現実の瑠衣と区別がつかないほど似ていた。
「結局、どちらの人生も私自身なんだね。」
瑠衣は微笑みながらそう呟いた。自分が選ぶ道がどのようなものであっても、それが自分にとっての「正解」であると確信したのだ。
鏡はもう特別な力を持たなくなったかのように、ただ静かに部屋の隅に立っていた。それでも、あの日感じた揺れる感情と、もう一人の自分との対話は、確かに瑠衣の心に新しい灯りをともしていた。