#ジャンル:SF
#トーン:思索的
#登場人物:青年
ネオンの輝く夜の都市は、まるで生き物のように脈打っていた。高層ビル群の中、ひっそりと佇む研究施設「オラクル・ラボ」。そこでは、人類の夢とも悪夢とも言えるプロジェクトが進行していた。AIによる未来予測装置「プロフェティア」。それは、瞬時に膨大なデータを解析し、個人の未来の出来事を映像として予言するという装置だ。
青年、相馬亮はその実験モニターに選ばれた一人だった。彼は大学を卒業したばかりの無職で、将来に対する漠然とした不安を抱えていた。参加理由も単純だ。モニターに参加すれば高額の謝礼が出る。それだけだった。
「準備はいいですか?」
白衣を纏った研究員の声が室内に響く。
亮は無言で頷き、装置の前に座った。巨大なスクリーンが目の前に広がり、ヘッドセットが彼の頭に装着された。冷たい金属の感触が、彼の鼓動をさらに速める。
「では、未来の断片をご覧いただきます。」
機械的な声とともに、スクリーンが光を放った。次の瞬間、映像が流れ始めた。
それは、亮自身の姿だった。薄暗い部屋の中、彼は荒れた息遣いで誰かに背を向け、拳を強く握りしめていた。そして、鈍い音とともに暗闇に人影が崩れる。彼はその場から逃げ出すように走り去った。
「……なんだ、これ?」
亮の声は震えていた。映像は突然終わり、スクリーンは元の無機質な状態に戻った。
「これが、AIが予測したあなたの未来です。数週間後、あなたは……誰かを殺す可能性が高い。」
その言葉に、亮の心臓は止まりそうだった。
「そんなはずはない!」亮は叫んだ。「俺が誰かを殺す?そんなこと、あり得ない!」
研究員は静かに首を振った。「プロフェティアの精度は99.7%。あなたが信じるかどうかは自由ですが、予測された未来を回避できた例は、これまでにほとんどありません。」
それからの日々、亮は未来の映像に怯えながら過ごした。スクリーンに映った薄暗い部屋の景色、鈍い音、そして倒れる人影。その全てが脳裏にこびりつき、離れなかった。
「運命なんて嘘だ。」亮は自分に言い聞かせるように呟いた。「俺はそんなことをする人間じゃない。」
だが、未来の映像が彼を縛り続けた。友人の誘いを断り、外出することも減った。誰と会っても、どのような状況でも、「この人が、倒れる人影になるのか」と考えずにはいられなかった。
そして運命の日が訪れる。亮は、不自然な流れで映像に映った薄暗い部屋に立っていた。偶然とも必然とも言える出来事が積み重なり、彼をその場所に導いていた。
「逃げられないのか……」亮が呟くと、背後で足音が聞こえた。振り返ると、そこには研究員が立っていた。
「君は選ばれたんだ。」
「何を言ってる?」
「君が殺すはずだったのは、我々の一員だった者だ。プロフェティアが君を予測した時点で、運命の一部になったのさ。」
亮の頭の中は混乱していた。だが、その時、自分の手に重みを感じた。拳銃だ。
「運命を回避できるのか、試してみたまえ。」
研究員の声が響く。亮は拳銃を見つめながら、心の中で叫んだ。
「俺が未来を変える!」
引き金にかかる指先が震える。果たして、運命に抗うことはできるのか——。