#ジャンル:日常
#トーン:青春
#登場人物:高校生
田舎の小さな町、夏の日差しが照りつける午後。高校生の和希は、自転車を走らせながら息を切らしていた。その先には、幼馴染の夏帆が待っている。彼女の手には麦わら帽子、そして笑顔。「遅いよ、和希!」と彼女は小声でからかうように言った。
二人が向かったのは、町外れに広がるひまわり畑。畑を抜ける小道は最近になって見つけた秘密の近道だ。その道を進むと、古びた木のベンチと廃材で作られた簡素なシェルターがある。和希と夏帆はそこを「基地」と呼び、夏休みの間、二人だけの特別な場所にした。
ある日、ふたりはひまわり畑を眺めながらアイスを食べていた。「和希、これ、知ってる?」夏帆が持ってきた新聞には、近くの土地開発計画の記事が載っていた。読めば読むほど、それがひまわり畑を巻き込むものだと分かる。「私たちの基地、なくなっちゃうかも…」
その日から二人は、ひまわり畑を守るために動き出した。開発に反対する署名を集めたり、町役場に相談に行ったり。けれど、大人たちは「仕方がない」「町の発展のためだ」と聞く耳を持たない。畑の端に立つ和希は、風に揺れるひまわりを見て拳を握った。「絶対、守るんだ」
しかし、夏休みの終わりが近づくにつれ、二人の間には微妙な距離が生じていった。和希はその理由が分からず、ただ焦りを感じた。そんなある日、夏帆が突然、和希にこう言った。「もう、いいかも。大人には勝てないよ」
「どうして諦めるんだよ!」「だって、仕方ないでしょ!」声を荒げる和希に対し、夏帆は静かに目を伏せた。その瞳の奥には、彼が知らない何かがあった。
結局、工事は予定通り進められ、ひまわり畑はその形を変えることとなった。夏帆は遠くの街へ引っ越し、二人はその後連絡を取ることも少なくなった。
数年後、和希は大学生となり、ふとした帰省の折にひまわり畑跡を訪れた。そこには新しい公園が整備されていたが、端の一角にひっそりと残されたひまわりが風に揺れていた。その横には、小さな木のプレートが立っている。「ここで見た景色を忘れないで」。夏帆の字だった。
和希はその文字を指でなぞりながら、あの夏の日々を思い出して微笑んだ。「忘れるわけないだろ」