#ジャンル:ドラマ
#トーン:再生物語
#登場人物:お天気お姉さん
朝の情報番組「おはよう新風」のスタジオ。若手気象予報士の夏美は、にこやかにカメラを見つめた。
「明日は各地で晴れるでしょう。お出かけ日和になりそうですね!」
滑らかな口調で伝えるが、その瞳にはわずかな不安の色が滲んでいた。気象データは異常を示していた。近年、予測が難しくなっている。自然は彼女たちの計算式の外で荒ぶり、その動きを掴むのが困難になっていたのだ。
その不安が的中したのは翌日だった。彼女が「晴れ」と断言した日、突如として記録的な豪雨が街を襲った。浸水した家々、動揺する住民たち、SNSで広がる批判の声。
「予報士失格ね」
「もう天気予報なんて信じられない」
そんな辛辣な言葉が画面越しに突き刺さる。夏美は拳を強く握りしめた。ミスを悔やむと同時に、予測が難しい自然の変化に対する無力感が彼女を覆った。
「もう、辞めるべきかもしれない」
何度もそう考えた。しかし、天気予報士になったきっかけを思い出すたび、その思いを押しとどめた。幼い頃、祖父がよく言っていた。
「天気を伝えるのは希望を伝えることだ。雨でも、いつか晴れると信じられるから人は前に進めるんじゃよ」
その言葉を胸に、彼女は再び原点を求めるように故郷を訪れた。
山間にある小さな神社。幼い頃、祖父に連れられてよく来た場所だ。緑に囲まれたその空間は、彼女にとって心を整える場所でもあった。そこで出会ったのは、白髪の老人だった。彼は神社の宮司だという。
「君の顔には雲がかかっとるな」
夏美が驚いていると、老人は微笑みながら続けた。
「天気を読むには、数字だけじゃだめじゃ。天気には心がある。心が見えれば、もっと正確に伝えられるじゃろう」
夏美は思わず笑った。荒唐無稽に思えたが、不思議と心に響いた。老人は彼女に奇妙な術を教え始めた。風を感じ、土の匂いを嗅ぎ、木々の葉の動きを観察する。それらが「天気の心」と繋がるのだという。
「数字やデータも大事じゃが、自然と対話することを忘れてはいかん」
夏美はその言葉を胸に、自然と向き合い始めた。最初は戸惑ったが、次第に「風がこう吹いたら雨になる」「湿度の匂いはこうだ」と直感が芽生えていく。
数週間後、夏美は再びスタジオに戻った。顔つきが変わり、自信に満ちていた。
「明日は雲行きが怪しいですが、午後からは晴れ間が広がるでしょう。お出かけの際は、軽い雨具をお持ちくださいね」
その言葉に視聴者たちは安心感を覚えた。彼女の予報は以前よりも的確で、温かみがあった。データだけでなく、自然の動きを感じながら伝えるそのスタイルは、多くの人に希望を与えた。
やがて彼女は「天気予報士」という枠を超え、新しい予報の形を提案する存在として注目されるようになった。けれど、夏美にとって本当に大事なのは、目の前の視聴者たちが「明日」を信じられることだった。
スタジオを出ると、空は晴れ間が広がり、雲がゆっくりと流れていた。
「明日も晴れるといいな」
そう呟きながら、夏美はまた次の予報へと歩き出した。