#ジャンル:ドラマ
#トーン:成長物語
#登場人物:中学生
第二章: チビの家族を探して
「お前の家族を見つけるには、まず近所の人たちに聞いて回るのがいいよな。」
悠人は自分に言い聞かせるように呟きながら、チビを抱いて家を出た。猫を連れて歩く少年の姿は少し目立つようで、道端で出会う人々が好奇心を込めて声をかけてきた。
「その猫、どこで拾ったんだい?」
「あら、まあ可愛いわね。」
悠人は立ち止まりながら、チビの家族について何か知らないかを尋ねてみた。しかし返ってくる答えは大抵、「見たことがないね」や「最近野良猫が増えたみたいだけど」という曖昧なものだった。
それでも諦めずに歩き回るうちに、町外れの商店街に差し掛かった。そこには魚屋や八百屋が並んでおり、にぎやかな声が飛び交っている。特に魚屋の前には、チビが興味津々で立ち止まった。
「坊主、その猫、うちの魚狙ってるのか?」
威勢のいい声で話しかけてきたのは、魚屋のおじさんだった。笑いながら悠人をからかうように言う彼に、悠人は慌てて「違います!」と否定した。
事情を話すと、おじさんは「そうか、猫の家族か…」と腕を組んで考え込んだ。
「最近、川のほうで親猫を見たって話があったな。子猫もいたって言ってたが、確か3匹くらいだったかな。」
「ほんとですか?!」
悠人の顔が一気に明るくなった。その情報が大きな手掛かりになるかもしれない。
次の日、悠人は川沿いを探しに出かけた。川辺には夏草が生い茂り、風に揺れる音が心地よく響いていた。チビは悠人の横を歩きながら、時折立ち止まっては鼻をひくつかせていた。
「チビ、何か分かったか?」
悠人が尋ねると、チビはピタリと動きを止めた。少し離れた草むらに向かってじっと目を向けている。
悠人がその方向に近づくと、草の奥から小さな鳴き声が聞こえた。「にゃあ、にゃあ」と重なる声。草を掻き分けると、そこには3匹の小さな子猫たちが丸まっていた。
「いた…!」
悠人の胸が高鳴った。子猫たちは怯えた様子で身を寄せ合っていたが、チビがそっと近づくと、一匹の子猫が小さな声を上げて駆け寄った。
「お前、本当に家族だったんだな。」
その光景を見ながら、悠人は自然と笑みを浮かべた。
しかし、子猫たちは衰弱しているようだった。このままではいけないと感じた悠人は、すぐに町に戻り、近所の人々に助けを求めた。商店街のおじさんや、おばさんたちが協力してくれ、子猫たちに餌や水を与える場所が用意された。
その後も、悠人は子猫たちの新しい飼い主を探すために奔走した。町中の掲示板にチラシを貼り付け、近所の人たちに声をかけ続けた。そして数日後、子猫たちはそれぞれ優しい飼い主に引き取られることが決まった。
悠人が最後の子猫を見送った日の夕方、チビが悠人の膝の上に飛び乗ってきた。目を細めて満足そうに鳴くその声に、悠人は「やったな」と笑顔で言った。
それは、悠人とチビの絆がさらに深まった瞬間だった。彼らの冒険は町の人々の心にも温かい記憶を残し、悠人にとっても忘れられないひと夏の思い出となった。