#ジャンル:ファンタジー
#トーン:感動的
#登場人物:少女
深い森の奥、夜ごとに星の涙が降るという伝説が語られる村があった。そこに住む少女リーナは、幼い頃から母に聞かされていた。
「星の涙は、願いを叶える力を持っているのよ。でもね、それは純粋な心でしか触れることができないの。」
彼女は母の言葉を胸に刻み、毎晩、村の聖なる丘へと足を運び、夜空から降る星の涙を集めていた。星の涙は、まるで宝石のように光り、手のひらに乗せると微かに脈打つように温かかった。
しかし、村にはもうひとつの伝説があった。それは、「影喰らい」と呼ばれる怪物の話。千年に一度、月が赤く染まる夜、森の奥から現れ、人々の光を奪うと言われていた。
ある夜、村人の叫び声が森に響き渡った。
「影喰らいが……村に!」
リーナは驚きとともに家を飛び出した。闇の中から、黒い霧のようなものが村へと忍び寄る。その中央に、不気味な金色の目が輝いていた。村人たちは恐怖に震え、誰もが家の中に閉じこもった。しかし、リーナだけは立ち止まらなかった。
彼女は、胸に抱えた小さな袋をきつく握りしめた。その中には、これまで集めた星の涙が入っている。
「お母さんが言ってた……信じる心があれば、きっと奇跡が起こるって。」
リーナは丘へと駆け上がり、空を仰いだ。月は赤く輝いているが、その奥には、確かに星々が瞬いていた。彼女は星の涙をひとつずつ地面に並べ、祈るように両手を重ねた。
「どうか……この村を守る力を……ください。」
その瞬間、並べられた星の涙が眩く光り、リーナの体を包み込んだ。星の光は優しく温かく、彼女の心に勇気を与えた。
影喰らいは獲物を見つけたかのようにリーナに向かってくる。しかし、彼女の瞳は決して恐れを映さなかった。
「あなたの闇には、光が足りないだけ……なら、私が光を届けるわ。」
リーナが差し出した手のひらから、星の涙の輝きが放たれる。それは純粋な光となって、怪物の黒い霧を静かに溶かしていった。影喰らいはうめき声を上げながら、やがて闇へと溶け込むように消えていった。
村に静寂が戻った。星の涙の輝きはまだ夜空に降り続けていた。村人たちが恐る恐る外へ出てくると、丘の上には笑顔のリーナが立っていた。
「大丈夫……もう怖くないよ。」
村人たちは涙を流しながら、彼女を称えた。その日から、村ではリーナの勇気と星の涙の奇跡が語り継がれるようになった。そして、彼女は今も、夜空を見上げ、星の涙を集め続けている。