#ジャンル:ミステリー
#トーン:クラシック
#登場人物:名探偵
ロンドンの街が濃霧に包まれ、ガス灯の明かりがぼんやりと揺れる深夜。名探偵エドワード・ブラックのもとに、不気味な赤い封筒が届けられた。封蝋には、見覚えのある印――不吉な「黒い鴉」の紋章が刻まれていた。助手のハロルド・グレイは震えた声で言った。
「先生、これは……《黒翼結社》のものでは?」
エドワードは静かに封を切り、中に入っていた紙を取り出した。そこには、まるで詩のように暗号化されたメッセージが綴られていた。
“闇が霧を覆う時、鐘の音とともに血が流れる。
塔に導かれし者よ、過去の影に囚われるだろう――”
その下には、こう続いていた。
“午前二時、ウェストミンスターの鐘塔にて”
「これは犯行の予告状ですか?」ハロルドが息を呑む。
エドワードは短く頷いた。「彼らは遊びが好きだ。罠だと承知の上で、我々を試している。」
ハロルドは躊躇したが、エドワードは冷静だった。「我々も試される側ではない、動くぞ。」
午前二時、ウェストミンスターの鐘塔へと足を運んだ二人は、濃い霧の中に包まれながらも、塔の階段を上っていった。塔の中はしんと静まり返り、時計の針が確かに進んでいる音だけが響いていた。
「先生、何かの気配がします……」
その瞬間、鐘の下に赤い布がひらめき、黒い影が素早く横切った。エドワードは急いで駆け出し、影を追った。
「止まれ!」
しかし、暗闇の中から不意に煙幕が焚かれ、目の前が真っ白になった。息を止めながら、エドワードは冷静に推理を巡らせた。
「ハロルド、彼らの目的は逃げることではない。我々を別の場所へ誘導することだ。」
煙が晴れると、床にもう一通の赤い封筒が落ちていた。そこには、ただ一言――
“次の手は運河にて”
「ふむ、彼らはすでに次の手を打っている。急ぐぞ。」
二人はテムズ川の運河へ向かった。街の明かりがぼんやりと揺れる中、岸辺に停泊した船のデッキに怪しげな人影があった。エドワードは手を振ると、影はすぐに逃げ出した。
「もう逃がしはしない!」
しかし、船内に踏み込むと、中には縛られた一人の男がうずくまっていた。彼の口には布が詰め込まれ、身動きも取れない。ハロルドが布を外すと、その男は震える声で言った。
「助けてくれ……奴らはもうすぐここに来る……」
エドワードは周囲を鋭く見渡し、すぐに理解した。「いや、ここに来るのは奴らではない。警察だ。」
その直後、船の周囲に警笛が鳴り響き、数人の警官が押し寄せた。船上にいた探偵と助手は、完全に包囲されてしまったのだ。
「しまった……」ハロルドが呟く。「これが奴らの狙いだったのか!」
エドワードは微笑み、手の中にある最後の赤い封筒を開くと、そこにはこう書かれていた。
“罠にかかったのは君たちだ。だが、ゲームはまだ終わらない”
翌朝、警察署で解放されたエドワードとハロルドは、署長から忠告を受けた。
「探偵さん、次は慎重になってもらわないと……我々も暇ではないんですよ。」
外に出ると、霧の中から静かに誰かが見ている気配がした。エドワードはポケットの中に新たな赤い封筒が入っていることに気づく。
「先生……次はどこへ?」
エドワードは封筒を開き、静かに呟いた。「次の手は《黒翼結社》の拠点にある。」