星の記憶

SF

#ジャンル:SF
#トーン:幻想的
#登場人物:記憶を失った青年

 目を覚ましたとき、リクは見知らぬ場所にいた。
 広がるのは果てのない夜空と、淡く光る岩肌。重力はほとんどなく、遠くで流星が尾を引いている。彼は自分がどこにいるのか、どうしてここにいるのか、何も思い出せなかった。

「起きたのね」

 柔らかな声が響く。振り向くと、白いワンピースをまとった少女が立っていた。青白い光を放つ瞳は、星のように揺らめいている。

「私はルナ。この星の案内人よ」

「ここは……どこなんだ?」

「ミルヴァ。この宇宙の果てに浮かぶ、小さな星」

 リクは自分の名前すらおぼろげで、ルナの言葉もすぐには理解できなかった。しかし、彼女は続ける。

「この星には、記憶が宿るの」

 ルナが指し示した先には、輝く小さな欠片があった。

「これは?」

「あなたの記憶の一部よ」

 リクが欠片に触れた瞬間、視界が一変した。
 目の前に広がるのは、地球の夜景。高層ビルの屋上、風に揺れる黒髪、自分の隣には誰かがいた。しかし、顔までは思い出せない。

 ――俺は……ここにいた?

 記憶が甦るにつれ、リクは自分がかつて地球に住んでいたこと、宇宙飛行士を目指していたことを思い出していく。そして、ミルヴァには無数の欠片が眠っていることも知った。

 リクはルナと共に星の欠片を探し、集めていった。かつての仲間、愛した人、夢を追いかけた日々――記憶の断片は徐々に繋がり、やがて一つの真実を示した。

「俺は……宇宙船の事故でここに流れ着いたのか?」

 ルナは静かに頷いた。

「でも、どうして俺の記憶がこの星に?」

「ミルヴァは、失われたものを集める星だから」

 そして、最後の欠片を見つけたとき、リクは驚愕した。それはルナ自身の記憶だった。

 ルナは宇宙に取り残された魂の集合体――この星が生み出した存在だった。彼女自身もまた、記憶を失い、誰かを待っていたのだ。

「君は……ずっとここに?」

「ええ。でも、あなたが最後の記憶を見つけたから、私はもうすぐ消えるわ」

 リクの胸に、言葉にできない感情が広がる。

「ルナ……俺は地球に帰る。でも、君を忘れない」

「ええ、私も」

 ルナの身体が光に溶けていく。

 ――ありがとう。

 最後に聞こえたその声とともに、リクは目を閉じた。

 再び目を開けたとき、彼は地球の病室にいた。窓の外には、無数の星が瞬いている。

 彼の胸の中には、ルナとの記憶がはっきりと残っていた。