#ジャンル:日常
#トーン:切ない
#登場人物:学生
学校が終わると、由紀は自然と透と並んで歩き出す。行き先は決まっている。学校近くの小さな喫茶店――「カフェ・サンセット」。
入り口のベルが軽やかに鳴ると、カウンターの奥で新聞を読んでいたマスターが穏やかに顔を上げた。
「いらっしゃい」
「マスター、今日もいつもの!」
透が笑顔で席に着く。由紀も隣に腰を下ろし、メニューを開くまでもなく頼んだ。
「私はミルクティーで」
「はいはい、かしこまりました」
ゆっくりとした時間が流れるこの店が、二人にとっての大切な場所だった。学校の悩みやちょっとした愚痴を話し、時にはマスターや常連客と語らう。そんな日々が当たり前のように続くと思っていた。
しかし、ある日――。
「なあ、由紀……この店、もうすぐ閉店するらしい」
透の声が、店内の静寂を破った。
「え……?」
「マスター、最近調子悪そうだっただろ? どうも体の調子がよくないみたいで、それで店を畳むことにしたらしい」
由紀は驚き、マスターを見る。彼は変わらず静かにコーヒーを淹れていたが、その横顔にはどこか寂しさが漂っていた。
「そんな……」
「何とかできないかな?」
二人は必死で考えた。店の宣伝をしたり、近所の人に声をかけたり。でも、どれだけ頑張っても、マスターの決意は揺るがなかった。
「ありがとうな。お前たちがそうやって店を思ってくれるだけで、十分だよ」
マスターは静かに微笑んだ。
そして迎えた、カフェ・サンセット最後の日。
店には常連客が集まり、最後のコーヒーを味わっていた。由紀も透も、最後までここにいたかった。
「ねえ、マスター」
「ん?」
「また、どこかでお店開いたら教えてね」
「……そうだな。その時は真っ先にお前たちを呼ぶよ」
夜になり、最後の客が帰った後、マスターは静かに店の灯りを消した。
カフェ・サンセットの扉が閉じる音が、二人の胸に深く響いた。
「寂しくなるな……」
透がつぶやく。由紀も涙をこらえながら、空を見上げた。
オレンジ色の夕焼けが、店の名前のように美しく広がっていた。