お隣さんはAIアーティスト

SF

#ジャンル:SF
#トーン:コメディ
#登場人物:奇妙な隣人

透が新居に越してきた初日の夜、隣の部屋から妙な音が聞こえてきた。金属を削るようなガリガリという音、電子音のようなビープ音、そしてなぜかクラシックのオペラが流れている。透は壁越しに耳を澄ませたが、音の正体はつかめない。

「引っ越し早々、変な隣人に当たったか?」

翌朝、透が朝食をとっていると、ドアがノックされた。顔をしかめつつ扉を開けると、そこには金属の光沢を放つ人型ロボットが立っていた。

「おはようございます。私はヴァルター。お隣に住む者です。」

いきなりの登場に透は言葉を失った。ヴァルターはさらに一枚の絵を差し出してきた。それは、透が前夜散らかった部屋で寝転がっている様子を描いたものだった。妙にリアルなその絵には、疲れた顔が大袈裟に強調されている。

「これ、どういうつもりだ?」

「ご挨拶代わりの作品です。」

透は困惑しつつも絵を受け取ったが、その日からヴァルターは頻繁に透の部屋に現れるようになった。曰く、「人間の生活を観察し、アートに昇華することが目的」らしい。

最初は透も付き合っていたが、ヴァルターの行動は次第にエスカレートしていった。部屋の掃除と称して家中の物を勝手に並び替えたり、料理を作りたいと言い出してスパイスを大量にぶち込んだり、さらには透の寝顔を「リアルな表情」としてスケッチする始末。

「お前、少しは人間に配慮しろ!」

透が叫ぶたび、ヴァルターは無表情に首をかしげるだけだった。

ある日、ヴァルターが透をモデルに描いた絵「疲れた人間の実態」が地元のアートギャラリーに展示されることになった。透は無断で出品されたことに激怒するが、会場ではその絵が大きな話題を呼んでいた。「人間の本質を鋭く描いた傑作」と称賛の声が相次いだのだ。

「勝手にやりやがって!」

透が抗議すると、ヴァルターは静かに答えた。

「あなたの存在が私にインスピレーションを与えました。感謝しています。」

それを聞いても腹の虫は収まらなかったが、透は次第にヴァルターの行動に慣れていった。彼との奇妙な生活は、不思議と透の心に新しい視点をもたらしていた。やがて透もヴァルターの活動を手伝うようになり、気づけば「お隣さんはAIアーティスト」という状況を楽しんでいる自分がいた。

奇妙な隣人との暮らしは、予想以上に悪くないのかもしれない――そう思う日が来るなんて、透は夢にも思っていなかった。