#ジャンル:日常
#トーン:心温まる
#登場人物:高校生
駅前の小さな喫茶店「カフェ・クローバー」は、開店してから30年が経つ。そこでアルバイトを始めた高校2年生の沙織は、毎日常連客たちとのやりとりを楽しんでいる。その中でひときわ気になる存在がいる。カウンター席にいつも座る青年だ。
青年は毎朝決まってカフェラテを一杯だけ注文する。名前も知らない彼は、ノートを開いて何やら黙々と作業をしている。沙織は密かに彼を「カフェラテの彼」と呼び、日課のように彼の姿を見るのを楽しみにしていた。
そんなある日、彼が席を立った後、沙織はカウンターにノートが忘れられているのに気づいた。中を覗くべきか迷ったが、何気なく開くと驚きの光景が目に入った。駅前や喫茶店のスケッチが見開き一面に描かれており、細部まで丁寧に描き込まれている。そして最後のページには、驚くべきことに制服姿の自分が描かれていた。
「えっ…私?」驚きで動けなくなった沙織は、急いでノートを持ち青年を追いかけた。
駅のホームで見つけた彼に声をかけると、彼は少し慌てた様子で振り返った。沙織がノートを差し出すと、彼は安堵の表情を浮かべた。
「ありがとう。助かったよ。」
「これ…全部あなたが描いたんですか?」思わず尋ねる沙織に、彼は頷いた。
「ここが好きなんです。だから、思い出に残しておきたくて。」
沙織はノートの最後のページの話題を切り出すべきか迷った。だが、好奇心に負けて問いかけた。「最後の絵も…その…私ですよね?」
青年は少し照れたように笑った。「そうだね。君が働いてる姿、印象的だったから。」
沙織は恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じた。それでも勇気を出して言葉を続けた。
「じゃあ次は…直接話しかけてくださいね。」
彼は驚いた後、笑顔を浮かべて「わかった」と答えた。その日から、カフェラテの彼は少しずつ沙織と話す時間を増やしていくようになった。