予言販売機

SF

#ジャンル:SF
#トーン:緊張感
#登場人物:サラリーマン

最初にその機械が見つかったのは、駅前の路地裏だった。

赤く塗られた金属の箱。側面には白い文字でこう書かれていた。

「予言販売機――100円で、あなたの24時間後を予言します」

興味本位で小銭を入れたOLが「午後3時、コーヒーをこぼす」と印字された紙を受け取り、その通りになったとSNSに投稿したのがすべての始まりだった。

やがて販売機は都内の各所に現れ、連日長蛇の列をなした。誰もが未来を知りたがり、笑い、驚き、時に恐れた。

「告白が成功する」「傘を忘れる」「パスワードを忘れる」「電車に遅れる」

予言の内容は、たいてい日常的だったが、驚くほど高確率で的中した。

ある日、男がその一台の前に立った。名前は佐野圭介。広告代理店で働く中年のサラリーマン。冴えない日々の中、なにげなくポケットから百円玉を取り出し、機械に入れた。

ガチャン、と紙が出てくる。

彼はそれを何気なく読み、そして凍りついた。

『あなたは予言を見て、死ぬ』

指先から、紙が滑り落ちた。冗談か。悪質なジョークか。だが、背中に冷たい汗が流れるのを止められなかった。

彼は会社を休んだ。自宅にこもり、スマホで「予言販売機 死亡例」と検索した。だが、同じ予言を受け取ったという報告は見つからない。

「偶然だ。間違いだ。機械のバグだ」

そう言い聞かせる一方で、時計の針ばかりが気になった。

午後、宅配便の受け取り時に足を滑らせかけた。夕方、鍋に火をかけていたことを忘れ、煙が上がった。夜道では、不審な影が横切った。

些細な出来事すら死の前触れに思え、心臓がすり減っていく。

夜十一時四十五分。

ソファに座り、テレビもつけず、ただ息を殺していた。

「あと十五分……何もなければ」

その瞬間、スマホが震えた。メッセージの通知。

《本日の予言結果を確認しませんか?》

販売機と連動した公式アプリだった。機械に入力した番号を登録していた彼のスマホに、予言の“実行確認”を求めてきたのだ。

恐る恐る、彼は画面を開いた。

『予言:あなたは予言を見て、死ぬ』

『実行状況:完了』

目の前が暗転した。次の瞬間、彼は心臓を押さえてその場に倒れた。

翌朝、ニュースは報じた。

「会社員男性が自宅で急死。死因は急性心不全」

そのポケットからは、くしゃくしゃになった予言の紙と、壊れたスマートフォンが見つかった。

同じ頃、駅前の路地裏。最初に販売機が見つかった場所に、新たな貼り紙が追加されていた。

「予言は未来を示すものであって、決して“変えられない”わけではありません。どうか、ご利用は計画的に」

それを見た女子高生が、笑いながら言った。

「なにそれ、自己責任ってこと?」

人々は今日も、小銭を機械に投げ入れる。

100円で買える、未来という名の運命。

あなたがそれを読んだ瞬間、何かが変わるかもしれない。