#ジャンル:ドラマ
#トーン:感動的
#登場人物:老人と旅人
風が冷たく吹き付ける港町の夕暮れ時、一人の老人が錆びたベンチに座り、ノートに詩を書いていた。その姿は町の誰もが知っている。名前は藤村。かつて船乗りだったが、年老いてから詩人として暮らしているという噂だ。しかし彼の詩を読んだ者はほとんどいない。
ある日、町に一人の若い旅人がやってきた。名前は翔太。人生の行き詰まりを感じ、偶然訪れた港町で老人を見かけた。興味を抱き、声をかける。
「何を書いてるんですか?」
「ただの詩だよ。ここに住む人々と、彼らの忘れられた物語を綴っているんだ」
藤村は薄い笑みを浮かべたが、その目には深い哀しみが宿っていた。翔太は老人の詩を読む許可を求めた。渋々ながらもノートを渡された翔太は、一行目を読んで息を呑む。それはこの町の歴史と痛み、そして希望を紡ぐ美しい言葉だった。
「どうしてこんな詩を書き続けてるんですか?」と翔太が尋ねると、藤村は海を見つめながら答えた。
「この町は、かつて希望に満ちていた。でもある悲劇が起き、人々はそれを忘れたふりをして生きている。その重荷を少しでも軽くするために、詩を書いているんだ」
藤村の詩には、過去の海難事故の真相と、失われた命への鎮魂が込められていた。翔太はその重さに圧倒されながらも、藤村の詩が町の人々に希望を取り戻させる鍵だと感じた。
次の日から、翔太は藤村の詩を町の壁に貼り出し始めた。それを見た住民たちは初めは戸惑ったが、次第に詩の中に自分たちの想いを見つけた。人々は久しく語ることのなかった記憶を話し始め、町に温かな空気が戻りつつあった。
藤村はそれを見て微笑み、翔太に言った。「ありがとう。この町が再び生きるためには、誰かの勇気が必要だったんだ」
やがて藤村は静かに町を去り、翔太は詩人としての道を歩み始める。それは藤村の詩を継ぎ、町を希望で満たすための新たな旅だった。