夕焼け小道の秘密

日常

#ジャンル:日常
#トーン:ほのぼの
#登場人物:中学生

悠斗は田んぼに囲まれた帰り道の小道が好きだった。学校が終わるといつも自転車を押してその道を歩き、茜色に染まる空をぼんやり眺めるのが日課だ。ある日、小道の端に白い封筒が落ちているのを見つけた。

「夕焼けを一緒に見よう。」簡素な手書きの文字が書かれている。差出人も宛名もない。それがいたずらだと感じながらも、悠斗は妙にその言葉が頭から離れなかった。次の日も同じ場所に同じような封筒が置かれていた。今度は「夕方5時、小道のベンチで。」とだけ書かれている。

最初は無視しようと思っていた。しかし、その日、学校で特に嫌なことがあり、気分を変えたかった悠斗は思い切って封筒の指示に従うことにした。

ベンチに到着すると、茜色に染まった空の下で夕日が田んぼに反射している。その美しさに一瞬見とれていると、後ろから声がした。
「来てくれたんだ。」

振り返ると、そこにはクラスメイトのさくらが立っていた。彼女は同じ中学に通っているが特別親しいわけではない。まさか彼女が手紙を書いたのかと驚き、悠斗は声を上げた。
「さくら?手紙のこと、知ってるの?」

彼女は少し恥ずかしそうに微笑んで言った。「私が書いたの。悠斗くん、この道が好きでよく歩いてるでしょ?私も同じなんだ。いつか一緒に見たいって思ってた。」

思わぬ告白に悠斗は驚いた。さくらは続けた。「でも、直接誘うのは勇気が出なくて。だから手紙を書いたの。」

悠斗は一瞬戸惑ったが、正直嬉しかった。誰かと夕焼けを共有することが、こんなに特別だと思わなかったからだ。二人はそのままベンチに並び、言葉少なに空を眺めた。

「綺麗だね。」悠斗がつぶやくと、さくらは静かに頷いた。しばらくしてさくらがぽつりと言った。「また一緒に来てもいい?」

悠斗は少し笑って、「もちろん」と答えた。その日から、二人は夕方の小道で会うのが日課になった。手紙の謎めいた始まりは、予想もしなかった友情と新しい日常を連れてきた。夕焼けの空が、二人の心をそっと包み込んでいく。