#ジャンル:SF
#トーン:切ない
#登場人物:天文学者
藤原一樹は、流星群が最も輝きを増す夜、天文台の観測室で一人作業していた。深い静寂に包まれた空間で、彼はいつものようにラジオを手に取り、雑音混じりの周波数を調整していた。古い機材には特別な愛着があり、その音はどこか懐かしく心地よかった。
しかし、その夜に限って奇妙な信号音が混ざり込んでいた。規則的な音――「ピッ、ピッ、ピピッ」。不自然なまでに整ったリズムが繰り返され、一樹は思わず耳を澄ませた。
「これは……ただのノイズじゃない。」
信号の波形を解析すると、それは確かに人為的なパターンを持っていた。送信元を突き止めようと試みたが、地球上のどの地点とも一致しない。さらに解析を進めると、音信の中に文字列が隠されていることが分かった。それは「HELP ME」という短いメッセージだった。
「助けて……?」
胸がざわつく。だが、どう助ければいいのか分からない。興味と好奇心に突き動かされ、一樹はメッセージの解読を続けた。信号が発信されるタイミングは、どれも彼にとって記憶深い日付と一致していた。誕生日や、大切な人と過ごした日。そして、家族を亡くしたあの日も。
「これが偶然のわけがない。」
信号の中に隠されていた一連の数字を並べ直すと、そこには驚愕の事実が記されていた。それは未来の自分からのメッセージだった。
「君がこのまま進むなら、大切な人を失う。選択を誤るな。」
画面上の文字を見つめ、一樹は愕然とした。これは単なる科学的興味では済まされない。だが、信号はさらに詳細な座標を送り続けてきた。それが示していたのは、天文台からほど近い森の中の地点だった。
恐る恐るその場所に向かうと、一樹は苔むした地面の中に埋もれていた箱を発見した。その中には、古びたノートと壊れた写真が入っていた。ノートは一樹の父の筆跡で書かれており、写真には一樹と両親が微笑む姿が映っていた。
ノートにはこう記されていた。
「息子へ。この記録が見つかる時、私はもういないだろう。だが、お前が後悔しない未来を選んでくれると信じている。」
一樹の目に涙が浮かんだ。父が何を伝えたかったのか、それを理解するにはまだ時間が必要だった。ただ、彼の胸には確かな決意が宿った。流星群が夜空を横切る中、一樹は空を見上げ、そっと願いを込めた。