ミステリー

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【短編小説】最後のスケッチ

放課後の美術室には、絵具の匂いと静けさが満ちていた。高校二年の遥香は、今、美術部の卒業制作に取り組んでいた。題材は、学校の裏手に残る旧校舎。今では使われておらず、生徒の出入りも禁止されているが、取り壊しが決まったと聞いて、彼女は“最後の記録”としてスケッチを描くことにした。
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【短編小説】手紙には書かれていない

春の引っ越しを目前に控えたある日、菜月の家に一通の古びた手紙が届いた。封筒は黄ばんでおり、消印はかすれて読めない。だが、差出人欄には何も書かれておらず、宛先だけがはっきりと——「朝倉菜月様」と記されていた。
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【短編小説】昼寝部屋の罠

哲が「昼寝部屋」の存在を知ったのは、五月の蒸し暑い午後だった。大学の講義と課題に追われ、眠気に負けて図書館の隅でうとうとしていたとき、同じゼミの吉田がこっそり教えてくれた。
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【短編小説】砂漠に消えた影

昼間の熱気がまだ残る砂の上に、それはあった。調査隊が砂漠の南端に設営したキャンプから少し離れた場所。風の通り道のはずの砂丘に、一直線に伸びる“足跡”が浮かんでいた。左右均等、やや深めのくぼみ。問題は、その足跡が“片道”しか存在しないことだった。
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【短編小説】朝焼けのランナー

薄桃色の空が、静かに夜を追いやる頃。麻衣はその橋のたもとに立っていた。毎朝5時すぎ、大学近くの川沿いをジョギングするのが日課だった。決まって同じタイミングで、向...
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【短編小説】交差点の証言者

午前二時過ぎ、霧の立ち込めた交差点。若手新聞記者の佐倉悠は、仕事帰りに偶然その現場に出くわした。パトカーの赤い光が揺れる中、アスファルトには血の跡。ひき逃げ事故...
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【短編小説】消えたランタンの謎

標高千メートルを超える山の奥にあるキャンプ場。その夜、大学の友人五人組は、焚き火を囲みながらビールを片手に語り合っていた。日が落ち、辺りは深い闇に包まれている。...
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【短編小説】落とし物係

駅の落とし物預かり所で働く西村修一は、毎日同じような品々を整理していた。忘れられた傘、落とされた財布、片方だけの手袋。どれも、誰かの不注意でここへたどり着き、そ...
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【短編小説】霧の向こうの手紙

朝霧が町を覆う頃、玲奈はいつもより慎重に自転車を走らせていた。郵便配達員になって五年、この町の道は隅々まで知り尽くしているはずだったが、霧が深くなると不思議と迷...
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【短編小説】最後の注文

そのバーは、薄暗く、静かな場所だった。 夜遅くまで賑わう華やかな店とは違い、ここには物静かな客ばかりが訪れる。人生に疲れた者、過去に取り憑かれた者、孤独を愛する...