SF

【短編小説】月面マーチ

観光化が進んだ月面都市〈ルナ・シティ〉では、地球からの旅行者が銀色のドーム内で無重力スポーツやクレーター・クルーズを楽しんでいた。その喧騒から遥か離れた場所──「裏側の谷」は、誰も訪れない静寂の地だった。
日常

【短編小説】サンドキャッスルの約束

午後三時、団地の向かいの公園にある砂場。そこに、毎日きっかりの時間に小さな男の子が姿を見せる。名前はユウト、幼稚園の年中組。お気に入りの青いスコップを手に、誰よりも真剣な顔で砂と向き合う。
SF

【短編小説】時間銀行

「あなたの寿命、買い取ります」その広告が街に溢れたのは、たった数年前のことだった。クロノバンク──“時間”を通貨として扱う新興企業は、医学と金融の境界を越えた。人間の寿命を数値化し、売買可能にする技術。それは、現代社会における格差を一気に拡張させる新しい通貨制度の幕開けだった。
ファンタジー

【短編小説】花の国の旅する王子

目を覚ますと、そこは一面の花畑だった。王子エルは、旅の途中で馬を失い、森の中で迷っていたはずだった。だが目の前に広がるのは、空の彼方まで続く色彩の海。風に揺れる花々が、まるでささやくように揺れている。
ドラマ

【短編小説】ラストノート・ブルース

夜の街角、コンビニの明かりが滲む歩道の隅で、カナタは静かにギターを鳴らしていた。足元には開いたギターケース。人通りの多い通りに音が溶けていく。澄んだブルースの旋律は、通り過ぎる人々の耳にかすかに残るだけだった。
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【短編小説】春、君にだけ咲く

春風が頬を撫でる午後、大学進学のために見知らぬ街に越してきた瑞希は、部屋のカーテンが足りないことに気づいた。歩いてすぐの商店街をうろうろしていると、ふと目に入ったのが、小さな花屋だった。ガラス越しに見えたのは、淡いピンクのラナンキュラスと、その隣で花を整える青年の姿。
ドラマ

【短編小説】無人島に灯る日

夕焼けが水平線を染めるころ、浜辺に立つリナは、穏やかな波の音に耳を澄ませていた。4日前の嵐で船が転覆し、偶然にも同じ救命ボートに乗り合わせた4人──リナ、航太、真理絵、そしてユウジ──は、この無人島に流れ着いた。
ファンタジー

【短編小説】深海のラストシンフォニー

深海調査船《セラフィム》の窓の外には、限りない闇が広がっていた。太陽の光が届かぬその場所で、潜水士リサは息を潜めていた。耳をすませば、機械音すら飲み込まれるような静寂――その中で、突如として“それ”は現れた。
ドラマ

【短編小説】おふくろの味、ふたたび

東京・銀座のフレンチレストランで、圭吾は日々、神経を張り詰めていた。ミシュラン星付きシェフ。予約は半年待ち。妥協のない料理とサービス。それが彼の誇りであり、生き方だった。そんな彼の元に、ある日一本の電話が入る。母が倒れ、入院したという知らせだった。
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【短編小説】潮風に手紙をのせて

優菜は、ただ静かな時間が欲しかった。都心の喧騒に疲れ、気づけば南国の島の航空券を予約していた。地図にすら載らないような小さな島。白い砂浜、エメラルドの海、鳥の声、潮騒。それらすべてが、彼女の心のざわめきを溶かしていった。