ドラマ

【短編小説】青の境界線

水平線と空の境が、まるで水彩画のようににじんでいた。エンジンの音はなく、帆に風が通る音だけが、静かに胸に響く。葵は大学を卒業した春、何の確信もなく一人、ヨットで海に出た。
日常

【短編小説】お昼寝タイム、はじまりました。

午後二時になると、真理のアラームが鳴る。「そろそろ、横になろうかな」在宅勤務になって三か月。毎日続くオンライン会議と、終わらぬ業務の山。慣れないデスクワークに肩は凝り、目はしょぼしょぼ。そんな彼女のささやかな日課が、午後の三十分だけ取る“お昼寝タイム”だった。
SF

【短編小説】最終承認

その日も、青年コウジは定時に職場へ向かった。オフィスとは名ばかりの、白く無機質な個室。椅子、卓上モニター、そして中央に鎮座する、たった一つの赤いボタン。「最終承認者」
ミステリー

【短編小説】駅と駅のあいだで

午前七時三十二分発の下り電車。会社員の綾子は、毎朝同じドアから乗り込み、同じつり革を握る。窓の外には変わらない街並み。スマホには通知の山。無意識にアプリを開き、既読スルーのメッセージを流し見る。ふと、アナウンスが流れた。
ドラマ

【短編小説】向日葵の名前

夏の空はどこまでも高く、蒼く、まぶしかった。祖父の葬儀が終わり、陽太は久しぶりに帰郷した実家の縁側に腰を下ろしていた。蝉の声が、まるで時間を巻き戻すように遠くから響く。
ミステリー

【短編小説】消えた登山道

夏の終わり、「黒雲山」で登山客の失踪が相次いでいると聞いた記者・志帆は、背筋を張りながら単独で山に入った。地元では「山に呼ばれた者は帰れない」とささやかれているが、それでも彼女の好奇心は止まらなかった。
恋愛

【短編小説】渚町サンセット

最寄り駅からバスで十五分、さらに坂道を下ると、渚町が見えてくる。海と山に挟まれた、どこか時間の流れがゆるやかな町。
日常

【短編小説】今日のごはんは、なんにする?

朝の光がレースのカーテンをすり抜け、キッチンにやさしく降り注ぐ。真理は小さく伸びをしながら、炊飯器のふたを開けた。「んー、今日もいい匂い」隣の椅子では、3歳の息子・光が、お気に入りのスプーンをにぎりしめて座っている。
ファンタジー

【短編小説】糸あやつりの国

廃墟のような人形劇場は、町外れの丘の上にぽつりと残っていた。古びた木の看板には、かろうじて「アルカ劇場」と読める文字。風に吹かれて軋むその音は、まるで誰かが幕を引く音のようだった。
ドラマ

【短編小説】赤い星の下で

砂嵐の向こう、赤く沈む太陽が遺跡の影を長く伸ばしていた。カイはその風景を、まるで何度も見た夢のように黙って見つめていた。ベテランのトレジャーハンターとして、彼は世界中の失われた遺物を追い求めてきた。