ミステリー

【短編小説】砂に沈んだ町

砂漠の夜明けは、静寂の中に薄紅の光が差し込む。考古学者のリナは、ラクダの背で揺られながら、遠くに広がる影を見つめていた。砂の海に浮かぶそれは、どこにも記されてい...
日常

【短編小説】朝の風とヘルメット

エンジンをかけた瞬間、眠気がふっとどこかへ飛んでいく。小さな出版社に勤める智は、毎朝バイクで通勤している。都心の雑多な街並みを抜け、川沿いを走り、ビルの谷間をす...
ミステリー

【短編小説】砂に消えた足跡

朝の海は、まだ夢を見ているように静かだった。潮風に髪をなびかせながら、女子高生・璃子はいつもの海岸を歩いていた。祖母の家に一時的に預けられているこの夏、早朝の散歩が日課になっていた。
日常

【短編小説】お昼寝タイム、はじまりました。

午後二時になると、真理のアラームが鳴る。「そろそろ、横になろうかな」在宅勤務になって三か月。毎日続くオンライン会議と、終わらぬ業務の山。慣れないデスクワークに肩は凝り、目はしょぼしょぼ。そんな彼女のささやかな日課が、午後の三十分だけ取る“お昼寝タイム”だった。
ミステリー

【短編小説】氷上の記憶

風が止み、雪が舞い落ちる湖面は、まるで静寂そのものだった。冬の朝、町外れの凍った湖で、ひとりの少年が湖底に何かを見つけた。それは、半透明の氷の中に閉じ込められた、片方だけの古いスケート靴だった。
ドラマ

【短編小説】空をつくる手

朝六時の空は、まだ鈍く灰色に濁っていた。都市再開発の中心部、建設中の超高層ビルの現場では、すでにクレーンが唸り、鉄骨が空を切っていた。その足元、ヘルメットと作業着に身を包んだ青年が、深呼吸ひとつして足を踏み出す。
SF

【短編小説】銀河夜行フィロソフィア

人生が完全に暗転した夜、カイは幻の列車に出会った。都市の喧騒を離れ、失意のまま歩いた丘の上、旧天文台の廃プラットフォームにそれは突如として現れた。光も音も発しないまま、星屑をまとうように滑り込んできた宇宙列車――フィロソフィア号。
ファンタジー

【短編小説】月影の庭で眠る

リオがその庭に迷い込んだのは、真夜中だった。町外れの森。月の光すら届かないような暗い木々の奥で、リオは道を見失っていた。親に怒られた帰り道、家に帰りたくなくて、ただ無心で歩き続けた結果だった。
ファンタジー

【短編小説】夢の王国と時計仕掛けの猫

目を覚ますと、空が足元にあった。ふわふわの雲に囲まれたその場所で、少女・ミリは目をぱちくりとさせた。見上げれば星が昼の空を流れ、足元には白銀の街並みが広がっている。
ファンタジー

【短編小説】白亜の守護竜

夏休みのある日、少年ハルは博物館の裏山にある発掘現場で、小さな骨の欠片を見つけた。地元の化石発掘イベントに参加していた彼は、他の子どもたちがアンモナイトや貝を掘り出すなか、ひときわ光を帯びた白い骨に目を奪われた。