ファンタジー【短編小説】忘却の果実 旅人リオは、その日も異国の陽射しを浴びて、砂と香辛料の匂いが入り混じる市場を歩いていた。色とりどりの布、陽気な音楽、行き交う声。遠く地中海の風が吹き込むこの町には、世界のどこにもない雑多な魅力があった。 2025.05.23ファンタジー
ファンタジー【短編小説】星橋を渡る夜 七夕の夜、少女・ナギは一人、神社裏の小さな丘で天の川を見上げていた。笹飾りもない短冊もない七月の風景に、願いごとを託す気にもなれずにいた彼女は、どこか空虚な気持ちで空を見つめていた。 2025.05.19ファンタジー
ファンタジー【短編小説】流れ星の滝へ 夜空を見上げるたび、リクトは妹の咲のことを思い出す。彼女は、生まれつき体が弱かった。病院のベッドで過ごす日々の中でも、咲はいつも空を見ていた。「流れ星を見たら、お願いするの」と笑って。だが、流れ星はそう簡単には現れないし、願いはなかなか叶わない。 2025.05.13ファンタジー
ファンタジー【短編小説】水溜まりの向こう側 雨が止んだばかりの朝、通学路にはいくつもの水溜まりができていた。小学五年生の理央は、いつものようにランドセルを背負い、跳ねるように水たまりを避けながら歩いていた。けれど、角を曲がった先で、ふと足が止まった。 2025.05.09ファンタジー
ファンタジー【短編小説】湖の底の図書館 ナナが祖母の住む村にやって来たのは、夏休みが始まったばかりの頃だった。両親の仕事の都合で毎年預けられるこの場所は、山と田んぼと静かな時間しかない退屈な田舎に思えていた。だが、今年は少し違っていた。 2025.05.07ファンタジー
ファンタジー【短編小説】月影の庭で眠る リオがその庭に迷い込んだのは、真夜中だった。町外れの森。月の光すら届かないような暗い木々の奥で、リオは道を見失っていた。親に怒られた帰り道、家に帰りたくなくて、ただ無心で歩き続けた結果だった。 2025.04.30ファンタジー
ファンタジー【短編小説】夢の王国と時計仕掛けの猫 目を覚ますと、空が足元にあった。ふわふわの雲に囲まれたその場所で、少女・ミリは目をぱちくりとさせた。見上げれば星が昼の空を流れ、足元には白銀の街並みが広がっている。 2025.04.26ファンタジー
ファンタジー【短編小説】白亜の守護竜 夏休みのある日、少年ハルは博物館の裏山にある発掘現場で、小さな骨の欠片を見つけた。地元の化石発掘イベントに参加していた彼は、他の子どもたちがアンモナイトや貝を掘り出すなか、ひときわ光を帯びた白い骨に目を奪われた。 2025.04.21ファンタジー
ファンタジー【短編小説】花の国の旅する王子 目を覚ますと、そこは一面の花畑だった。王子エルは、旅の途中で馬を失い、森の中で迷っていたはずだった。だが目の前に広がるのは、空の彼方まで続く色彩の海。風に揺れる花々が、まるでささやくように揺れている。 2025.04.12ファンタジー
ファンタジー【短編小説】深海のラストシンフォニー 深海調査船《セラフィム》の窓の外には、限りない闇が広がっていた。太陽の光が届かぬその場所で、潜水士リサは息を潜めていた。耳をすませば、機械音すら飲み込まれるような静寂――その中で、突如として“それ”は現れた。 2025.04.08ファンタジー