昼休みに

日常

【短編小説】休日はごきげんスニーカー

目覚まし時計の音がしない朝。それだけで、心がふっと軽くなる。独身OLの美月は、久々の完全オフを迎えていた。部屋の窓を開けると、春のやわらかな風がカーテンを揺らし...
日常

【短編小説】きょうのお買い得

木曜日の午前十時。絵理子はお気に入りのエコバッグを肩に、近所のスーパーへと歩き出す。家族が出かけた後の、たった一人の静かな時間。それが、彼女にとっての“小さなご...
ミステリー

【短編小説】砂に消えた足跡

朝の海は、まだ夢を見ているように静かだった。潮風に髪をなびかせながら、女子高生・璃子はいつもの海岸を歩いていた。祖母の家に一時的に預けられているこの夏、早朝の散歩が日課になっていた。
ドラマ

【短編小説】青の境界線

水平線と空の境が、まるで水彩画のようににじんでいた。エンジンの音はなく、帆に風が通る音だけが、静かに胸に響く。葵は大学を卒業した春、何の確信もなく一人、ヨットで海に出た。
ミステリー

【短編小説】消えた登山道

夏の終わり、「黒雲山」で登山客の失踪が相次いでいると聞いた記者・志帆は、背筋を張りながら単独で山に入った。地元では「山に呼ばれた者は帰れない」とささやかれているが、それでも彼女の好奇心は止まらなかった。
ミステリー

【短編小説】深海の記名帳

深海2000メートル、光も届かぬ海底に、静かに横たわっていたのは、沈没船「サイレント・リリー」だった。発見されたのは偶然だった。日本海溝付近での無人探査の最中、ソナーが不自然な反射を検知したのがきっかけだった。
SF

【短編小説】屋上ノイズ

築50年の古いマンション「ミナト荘」。その最上階で、夜な夜な不可解な“音”が鳴るという噂があった。それは、午前2時ちょうどになると屋上から発せられる微弱な電磁ノイズ。近隣住民のテレビやラジオが一瞬だけ乱れ、誰もいない屋上から「ビー…ビー…ピィ……」という不規則な電子音が聞こえる。
恋愛

【短編小説】波間に手紙を添えて

カーフェリーの甲板には、潮風が優しく吹いていた。夏の終わり、大学生の蓮は久しぶりに故郷の島へ帰る途中だった。東京の喧騒から離れて、わずか三時間の船旅。白い波と青空を眺めていると、胸の奥がじんわりとほどけていく気がした。
ミステリー

【短編小説】最後のスケッチ

放課後の美術室には、絵具の匂いと静けさが満ちていた。高校二年の遥香は、今、美術部の卒業制作に取り組んでいた。題材は、学校の裏手に残る旧校舎。今では使われておらず、生徒の出入りも禁止されているが、取り壊しが決まったと聞いて、彼女は“最後の記録”としてスケッチを描くことにした。
ミステリー

【短編小説】昼寝部屋の罠

哲が「昼寝部屋」の存在を知ったのは、五月の蒸し暑い午後だった。大学の講義と課題に追われ、眠気に負けて図書館の隅でうとうとしていたとき、同じゼミの吉田がこっそり教えてくれた。