不思議な話

ファンタジー

【短編小説】糸あやつりの国

廃墟のような人形劇場は、町外れの丘の上にぽつりと残っていた。古びた木の看板には、かろうじて「アルカ劇場」と読める文字。風に吹かれて軋むその音は、まるで誰かが幕を引く音のようだった。
ミステリー

【短編小説】深海の記名帳

深海2000メートル、光も届かぬ海底に、静かに横たわっていたのは、沈没船「サイレント・リリー」だった。発見されたのは偶然だった。日本海溝付近での無人探査の最中、ソナーが不自然な反射を検知したのがきっかけだった。
SF

【短編小説】幸福配送サービス

日曜の朝、窓際のテーブルに置かれていたのは、見覚えのない黒い端末だった。名刺ほどの大きさで、表面にはただひとつ「幸福配送サービス」とだけ書かれている。
SF

【短編小説】屋上ノイズ

築50年の古いマンション「ミナト荘」。その最上階で、夜な夜な不可解な“音”が鳴るという噂があった。それは、午前2時ちょうどになると屋上から発せられる微弱な電磁ノイズ。近隣住民のテレビやラジオが一瞬だけ乱れ、誰もいない屋上から「ビー…ビー…ピィ……」という不規則な電子音が聞こえる。
ファンタジー

【短編小説】忘却の果実

旅人リオは、その日も異国の陽射しを浴びて、砂と香辛料の匂いが入り混じる市場を歩いていた。色とりどりの布、陽気な音楽、行き交う声。遠く地中海の風が吹き込むこの町には、世界のどこにもない雑多な魅力があった。
ミステリー

【短編小説】最後のスケッチ

放課後の美術室には、絵具の匂いと静けさが満ちていた。高校二年の遥香は、今、美術部の卒業制作に取り組んでいた。題材は、学校の裏手に残る旧校舎。今では使われておらず、生徒の出入りも禁止されているが、取り壊しが決まったと聞いて、彼女は“最後の記録”としてスケッチを描くことにした。
ミステリー

【短編小説】手紙には書かれていない

春の引っ越しを目前に控えたある日、菜月の家に一通の古びた手紙が届いた。封筒は黄ばんでおり、消印はかすれて読めない。だが、差出人欄には何も書かれておらず、宛先だけがはっきりと——「朝倉菜月様」と記されていた。
ミステリー

【短編小説】昼寝部屋の罠

哲が「昼寝部屋」の存在を知ったのは、五月の蒸し暑い午後だった。大学の講義と課題に追われ、眠気に負けて図書館の隅でうとうとしていたとき、同じゼミの吉田がこっそり教えてくれた。
ファンタジー

【短編小説】湖の底の図書館

ナナが祖母の住む村にやって来たのは、夏休みが始まったばかりの頃だった。両親の仕事の都合で毎年預けられるこの場所は、山と田んぼと静かな時間しかない退屈な田舎に思えていた。だが、今年は少し違っていた。
ファンタジー

【短編小説】月影の庭で眠る

リオがその庭に迷い込んだのは、真夜中だった。町外れの森。月の光すら届かないような暗い木々の奥で、リオは道を見失っていた。親に怒られた帰り道、家に帰りたくなくて、ただ無心で歩き続けた結果だった。