切ない

ドラマ

【短編小説】ペダルの向こうへ

春の風が、頬を優しくなでていく。亮介は地図も持たず、自転車のペダルをゆっくりと踏み込んだ。大学を卒業し、就職を控えたこの春、彼は唐突に一人旅に出た。きっかけは、...
ドラマ

【短編小説】風を読む男

滑走路を吹き抜ける風は、いつだって何かを運んでくる。元ベテランパイロットの圭一は、飛行学校の訓練教官として、静かな日々を送っていた。制服を脱いで五年。彼はもう、...
恋愛

【短編小説】君の空に溶けて

空港の滑走路が見える小さな町で、陸は毎朝、空を見上げていた。通学路の途中にある丘の上。そこに立つと、ちょうど空港から飛び立つ飛行機が真上を通る。そのたびに、青空に白く長い飛行機雲が引かれる。
ドラマ

【短編小説】土の声を聞く日

春のはじめ、山村の風はまだ冷たかった。過疎化が進み、人影もまばらなこの村で、浩一はただひとり畑を耕し続けていた。かつては祖父と共に働いた土。祖父が亡くなってから二年、誰も戻らない村で彼だけが“土”に残る意味を信じていた。
ファンタジー

【短編小説】水溜まりの向こう側

雨が止んだばかりの朝、通学路にはいくつもの水溜まりができていた。小学五年生の理央は、いつものようにランドセルを背負い、跳ねるように水たまりを避けながら歩いていた。けれど、角を曲がった先で、ふと足が止まった。
恋愛

【短編小説】傘越しの告白

雨が降ると、紗季は決まって遠回りして帰った。駅前のロータリー、古い本屋の前に立つ無口な青年に会うためだ。彼はいつも、駅から出てきた人にそっと傘を差し出していた。大きなビニール傘。無言のまま、にこりともせず。
恋愛

【短編小説】合格発表のあとで

冬の朝は、図書室の窓ガラスがうっすらと曇っていた。高校三年の優斗は、受験勉強のために、ほぼ毎朝開館と同時に図書室へ向かった。お気に入りの席は、窓際の左端。日が当たりすぎず、静かで、集中しやすい場所。
SF

【短編小説】星間特急アルクトゥルス

地球最後の夜、星間特急「アルクトゥルス」は発車した。腐敗した大気、干上がった海、崩壊した都市――かつて青く輝いた星は、今や滅びの音を立てていた。
日常

【短編小説】パンとラジオとおばあちゃん

まだ外が暗いうちから、小さな町のパン屋「くるみ堂」は動き出す。朝4時。店主のサキはエプロンを締め、オーブンのスイッチを入れながら、古びたラジオのダイヤルを回す。パチパチと雑音の後、AMラジオの穏やかな声が流れ始める。
ドラマ

【短編小説】SAブルース

国道沿いの高速道路サービスエリア、時刻は午前二時。深夜の売店には、自動ドアの開閉音と、飲料棚の冷気が流れる音しかなかった。