#ジャンル:ミステリー
#トーン:サスペンス
#登場人物:姉と妹
そのカフェの噂を聞いたのは、沙良が地元の小さな民宿で泊まったときだった。
「Marine Cafeって名前のカフェがあるんだが、不思議な場所でな。夕日が沈むときだけ現れて、また消えるらしい。」
民宿の主は、どこか楽しげに話した。しかし、沙良にとってそれは単なる噂話ではなかった。3年前に失踪した妹、由梨の行方を追ってこの街に来た彼女にとって、どんな小さな情報も手がかりだった。
翌日、沙良はそのカフェを探すべく海辺の崖沿いを歩いていた。赤い夕日が水平線に沈み始めた頃、崖の先にぽつんと建物が浮かび上がった。小さな木製の看板には「Marine Cafe」と書かれている。
扉を押し開けると、そこには暖かい光に包まれた空間が広がっていた。木の香りが漂う店内には数人の客が席についている。カウンターでは、穏やかな笑顔を浮かべるバリスタが沙良を出迎えた。
「いらっしゃい。特別な一杯をどうぞ。」
差し出されたカップには、美しい波模様のラテアートが浮かんでいる。それを口にした瞬間、沙良の脳裏に映像が浮かんだ。灯台の前で笑顔を浮かべる妹の姿――それは、失踪前の彼女を鮮明に映し出していた。
「これ…由梨?」
沙良が驚きの声を上げると、バリスタは静かに微笑むだけで答えなかった。周囲の客たちも、どこか現実離れした雰囲気をまとっているように感じられた。
外に出ると、カフェは跡形もなく消えていた。海風が強く吹きつける中、沙良は一人立ち尽くした。しかし、頭の中にははっきりと妹の姿と灯台の映像が残っていた。
「灯台に何かがあるのかもしれない…」
沙良はその手がかりを胸に、翌日灯台を訪れる計画を立てた。不思議なカフェとの出会いは、彼女に新たな希望と妹を探すための新たな糸口を与えたのだった。
灯台に向かう道のりの中で、沙良の心は不思議と軽やかになっていた。答えが見つかるかどうかはわからない。しかし、一歩ずつ進むことで、何かが変わると信じられる気がしていた。