エドワード・ブラックは新たな赤い封筒を開いた。中には、血のような赤いインクでこう書かれていた。
「ミルバンクの廃墟にて。真夜中の鐘が鳴る前に」
「ミルバンクの廃墟……」ハロルドが低く呟いた。「あそこは旧刑務所跡ですよね?もう何年も閉鎖されているはずですが……。」
エドワードは静かに頷いた。「《黒翼結社》は、いつも歴史の影を好む。夜の霧と廃墟は、彼らにとって最高の舞台だ。」
「しかし、今度は我々が彼らの罠にかける番です。」
夜が更け、霧が深まる頃、二人はミルバンクの廃墟へと向かった。廃墟の高い壁は薄暗いガス灯の光に照らされ、不気味な陰影を落としている。
「静かすぎる……」ハロルドがつぶやいた。
「奴らは、静寂の中に隠れるのが得意だ。」エドワードは慎重に扉を押し開けた。
中へ進むと、かつての牢獄の影が今もなお息づいているかのようだった。奥へと進むにつれ、床には何かを引きずった跡が残っていた。
「これは……誰かが最近ここを通った痕跡です。」ハロルドが指で跡をなぞる。
エドワードはふと立ち止まり、壁にかかった古びた時計を見つめた。その針は11時45分を指していた。
「真夜中の鐘が鳴る前に……ということは、我々に残された時間は15分しかない。」
その瞬間、奥の廊下からかすかな足音が響いた。二人は音を追って急ぎ足で進んだが、突然、重い鉄の扉が背後で閉ざされた。
「やられたか……!」ハロルドが振り返るも、すでに扉はびくともしなかった。
暗闇の中、どこからか囁くような声が聞こえてきた。
「君たちは時計のように正確に動く……だが、それは我々の手の内にあることを忘れるな。」
エドワードは冷静に辺りを見渡し、壁に貼られた設計図を見つけた。「ハロルド、こっちだ。廃墟は迷路のようだが、構造は単純だ。」
彼は素早く紙を折り、秘密の抜け道を見つける。「旧監視塔の裏へ回り込めば、奴らのアジトへ繋がっている可能性が高い。」
監視塔の裏に回ると、そこには机の上に並べられた複数の赤い封筒があった。エドワードは封を切ると、その中の一通に目を留めた。
「次の標的は『王立宝石庫』」
「これが奴らの本当の狙いか……!」
その瞬間、物陰から黒いマントの男が飛び出し、短剣を振り下ろした。しかし、エドワードは素早く身をかわし、ハロルドが背後から相手を取り押さえた。
「我々が思った通り、君たちは宝石庫を狙っているのだな?」
男は薄ら笑いを浮かべ、「全ては計画の一部だ。君たちがどこまで踏み込めるか、試させてもらった」と呟いた。
「先生、これは単なる囮だったのでしょうか?」ハロルドが戸惑ったように尋ねる。
エドワードは封筒の内容を再び見直し、静かに言った。「いや……これは本物だ。だが、我々をここに引き留めておくための時間稼ぎでもある。」
「急がねば!」
王立宝石庫へ向かった二人は、警備を突破しようとする黒翼結社の一団と対峙する。
エドワードは冷静に指示を出し、警備隊と協力して彼らを包囲。ついに首謀者である黒翼の長、セバスチャン・クロウを追い詰めた。
「またお前か、ブラック……だが、今度こそ逃げられまい。」クロウは静かに言った。
「私は逃げるつもりはない。君がこの手で最後まで導くつもりだ。」
クロウはほくそ笑み、「ならば最後の手紙を見せよう」と言って、エドワードの足元に一通の赤い封筒を投げた。
「ゲームは終わらない。新たな夜が始まる――」
霧の中へ消えていくクロウを前に、エドワードはゆっくりと手紙をしまった。
「ハロルド、この戦いはまだ終わりではない。」
助手は深く息をつきながら、夜明けの光が差し込むロンドンの街を見つめた。
「次の夜に備えましょう、先生。」

