【短編小説】空の目の沈黙

ミステリー

地球の夜空をめぐる無数の人工衛星。そのひとつ、観測衛星「アルテミス5号」は、地球規模の環境変動を監視する重要な“目”だった。

だが、そのアルテミス5号が、突如として沈黙した。

最初に異変を察知したのは、管制センターの若手技術者・高瀬だった。

「……アルテミス5号、応答なし。回線ロスト、通信途絶……」

同時に、世界各地で奇妙な電波障害が発生し始めた。携帯通信、衛星放送、軍事用の暗号通信まで、原因不明のノイズが混線する。

「ただの故障じゃない……」

高瀬は上司とともに緊急調査チームに加わり、衛星の最終ログを解析した。そこで見つけたのは、アルテミス5号のカメラが送ってきた最後の映像だった。

それは、地球軌道上に“本来存在しないはずの構造物”を映していた。

映像の中、漆黒の宇宙に浮かぶそれは、正十二面体のような形をしていた。表面は光を吸い込み、わずかな輪郭だけが星明りに際立っていた。

「こんなもの、軌道上に建造された記録はない……」

「軍事衛星か?いや、こんな大型構造物、打ち上げの痕跡がない」

チームは顔を見合わせた。

世界中の観測網、レーダー、望遠鏡。誰も、何も知らない。

やがて解析が進み、別の事実が判明した。

アルテミス5号が通信を絶った直前、強力な指向性電波がその構造物から放たれていた。まるで「何かを送信する」ように。

「じゃあ……あれは何かの送信機?」

「もしくは妨害装置か……人間の作ったものじゃない可能性も……」

高瀬の頭に寒気が走った。もし、誰かが意図的に地球の通信網を制御しようとしているのだとしたら?

ある夜、高瀬は単独で管制室に残り、映像の再生を繰り返した。何か見落としている。そんな気がしてならなかった。

そして気づいた。構造物の表面に、極めて微細な光の点滅があることに。

解析ツールを駆使し、点滅のパターンを抽出する。

結果、それは人類の既知の言語ではない、未知の符号列だった。

「これは……何かのメッセージ……?」

その瞬間、モニターが暗転し、強制シャットダウンされた。

再起動は不可能。システムには、存在しないはずの管理者権限が書き換えられていた。

「……空の目は、何を見たんだ?」

朝日が地平線を照らす頃、高瀬は窓の外を見つめた。

空は何も答えなかった。ただ、沈黙のまま、その謎を隠し続けていた。

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