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【短編小説】一粒の誓い

田植えの季節、山あいの村に水が流れ始めると、達也は祖父の遺した小さな田んぼのあぜ道に立った。二十代半ば、都市での会社勤めを辞め、家業である米農家を継いだばかり。...
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【短編小説】パンケーキは、火曜日に

火曜日の朝は、バターの香りから始まる。小さなキッチンに差し込む光の中で、花は静かに粉を混ぜ、牛乳を加え、卵を落とす。ひと匙のバニラエッセンスを加えるのが、夫の好...
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【短編小説】風を背負って

春先の野を抜ける風は、どこか父の背中の匂いがした。若き行商人・タケルは、父の形見の荷車を引き、ひとり道を歩いていた。荷車には布、器、塩、薬草、村から村へと運ぶ品...
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【短編小説】ペダルの向こうへ

春の風が、頬を優しくなでていく。亮介は地図も持たず、自転車のペダルをゆっくりと踏み込んだ。大学を卒業し、就職を控えたこの春、彼は唐突に一人旅に出た。きっかけは、...
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【短編小説】潮の道しるべ

夜明け前、海はまだ眠っているかのように静かだった。真司は父の形見のゴム長靴に足を通し、小さく息を吐いた。冷たい風が頬をかすめ、潮の匂いが鼻先に染み込む。「親父も...
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【短編小説】風を読む男

滑走路を吹き抜ける風は、いつだって何かを運んでくる。元ベテランパイロットの圭一は、飛行学校の訓練教官として、静かな日々を送っていた。制服を脱いで五年。彼はもう、...
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【短編小説】青の境界線

水平線と空の境が、まるで水彩画のようににじんでいた。エンジンの音はなく、帆に風が通る音だけが、静かに胸に響く。葵は大学を卒業した春、何の確信もなく一人、ヨットで海に出た。
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【短編小説】向日葵の名前

夏の空はどこまでも高く、蒼く、まぶしかった。祖父の葬儀が終わり、陽太は久しぶりに帰郷した実家の縁側に腰を下ろしていた。蝉の声が、まるで時間を巻き戻すように遠くから響く。
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【短編小説】赤い星の下で

砂嵐の向こう、赤く沈む太陽が遺跡の影を長く伸ばしていた。カイはその風景を、まるで何度も見た夢のように黙って見つめていた。ベテランのトレジャーハンターとして、彼は世界中の失われた遺物を追い求めてきた。
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【短編小説】白亜の手紙

標高二千メートルを超える山奥、霧が谷を包む中、若手古生物学者の楓はスコップを握りしめていた。「ここで白亜紀の層が見つかるなんて……」大学の調査チームの一員として、楓は恐竜時代の地層を調べていた。数日前の豪雨によって露出した地層には、異常なまでに保存状態の良い化石がいくつも見つかっていた。