ミステリー

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【短編小説】映らない水面

秋の澄んだ空気のなか、悠はひとり山を登っていた。舗装された旧道は観光客で賑わっていたが、登山に慣れた彼は、ふと気まぐれに脇道へそれた。木々の間に隠れるように伸び...
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【短編小説】閉店前のレコード屋

真夜中の帰り道、山沿いの薄暗い道を走る老夫婦・洋子と洋一は、ランプの灯りに誘われて一軒の小さなレコード屋に立ち寄った。看板には「閉店間近」の文字。誰もいないはず...
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【短編小説】第二船倉の記録

遠洋漁業船「第八光翔丸」が鹿児島港を出たのは、秋も深まる十月の初旬だった。乗組員は全員で十人。うち新人が一人。大漁旗をたなびかせ、長い航海に出る準備は整っていた...
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【短編小説】空の目の沈黙

地球の夜空をめぐる無数の人工衛星。そのひとつ、観測衛星「アルテミス5号」は、地球規模の環境変動を監視する重要な“目”だった。だが、そのアルテミス5号が、突如とし...
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【短編小説】砂に沈んだ町

砂漠の夜明けは、静寂の中に薄紅の光が差し込む。考古学者のリナは、ラクダの背で揺られながら、遠くに広がる影を見つめていた。砂の海に浮かぶそれは、どこにも記されてい...
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【短編小説】砂に消えた足跡

朝の海は、まだ夢を見ているように静かだった。潮風に髪をなびかせながら、女子高生・璃子はいつもの海岸を歩いていた。祖母の家に一時的に預けられているこの夏、早朝の散歩が日課になっていた。
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【短編小説】駅と駅のあいだで

午前七時三十二分発の下り電車。会社員の綾子は、毎朝同じドアから乗り込み、同じつり革を握る。窓の外には変わらない街並み。スマホには通知の山。無意識にアプリを開き、既読スルーのメッセージを流し見る。ふと、アナウンスが流れた。
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【短編小説】消えた登山道

夏の終わり、「黒雲山」で登山客の失踪が相次いでいると聞いた記者・志帆は、背筋を張りながら単独で山に入った。地元では「山に呼ばれた者は帰れない」とささやかれているが、それでも彼女の好奇心は止まらなかった。
ミステリー

【短編小説】深海の記名帳

深海2000メートル、光も届かぬ海底に、静かに横たわっていたのは、沈没船「サイレント・リリー」だった。発見されたのは偶然だった。日本海溝付近での無人探査の最中、ソナーが不自然な反射を検知したのがきっかけだった。
ドラマ

【短編小説】白亜の手紙

標高二千メートルを超える山奥、霧が谷を包む中、若手古生物学者の楓はスコップを握りしめていた。「ここで白亜紀の層が見つかるなんて……」大学の調査チームの一員として、楓は恐竜時代の地層を調べていた。数日前の豪雨によって露出した地層には、異常なまでに保存状態の良い化石がいくつも見つかっていた。